スカウトしたはずのイケメン御曹司からプロポーズされました

 この子はまだそんなことを言っているのか。
「それとこれとは別でしょう。仕事として引き受けたんだから、君のことはちゃんと最後まで面倒見るよ」
「へえ、最後まで」
 貴晴くんがふてぶてしい笑みを浮かべ、小首を傾げる。ちょっぴり彼の兄を思わせる仕草だった。
「じゃあ俺が結婚してあげようか?」
「へ?」
「俺とだって、玉の輿には違いないよ」
 この子は何を――。
「貴晴!」
 ひときわ大きく、鋭い声だった。
 その場にいた人間を瞬時に黙らせる一喝と共に貴博さんが現れる。
 表に続く縁側を渡って入ってきた彼は、麗さんのことなど見向きもせずにソファの脇を横切り、部屋の奥にちょこんと立っていた私と貴晴くんの間に割って入った。
「人の女を口説くな」
 弟を睨む横顔は、これまで見たどんな貴博さんよりも美しかった。その圧倒的な存在感でこの場にいる皆の視線を一気に引きつける。
 ……ああ、やっぱり格好いい。
 どう考えてもそれどころじゃない状況なのに、前方をひたと見据える形の良い目に私は思わず見惚れてしまった。会えると分かっていればもっとちゃんとした格好をしてきたのに、なんて今日のラフな服装を密かに後悔していた。初めて彼と出会った時から全く学習していない。
 静寂を破ったのは貴晴くんだ。
「いや、冗談に決まってるでしょ」
 彼は圧など飄々と受け流す。