スカウトしたはずのイケメン御曹司からプロポーズされました

 彼の口調に合わせて、麗さんが「マジよ」と答える。
「いきなりこんな話を聞かせてしまってごめんなさい」
「いや、俺は全然いいけど」
 と言いながら私の方を見る。
「深雪先生、ドンマイ」
 いやいや。
 貴晴くんは知らないだろうが、あの男は結構な恋愛下手で、そういうことにも淡白だった。妊娠が発覚するということは少なくとも……二ヶ月前とか? つまりは私が家庭教師を始めた頃には関係があったことになる。断じてあり得ない。
 と、この場で私が反論できるわけもない。
 否定的に捉えたこちらと違い、文乃さんの表情には期待がこもっていた。
「ホントに?」
 恐る恐る尋ねた彼女に麗さんがコックリ頷けば、もう笑みがこぼれている。
「だとしたらきちんと籍を入れなければ、ね。結婚式の日取りも早めに決めないと」
 ぼそぼそした彼女の呟きに、麗さんがニコニコと相槌を重ねていた。そしてそんな二人を前にして、私は途方に暮れていた。
 いったいどうすれば……?
「あーあー」
 隣から間延びした声が聞こえて、ハッとした。
「模試の成績どころじゃなくなっちゃったな」
 貴晴くんの言葉で、我々が何をするためにここへ来たのか思い出す。
「深雪先生、どうするの?」
「そっか、ごめん。授業に戻らないとね」
「じゃなくてさ。兄ちゃんと結婚できなくなるのに、俺の家庭教師やってる意味ないでしょ?」