スカウトしたはずのイケメン御曹司からプロポーズされました

 もともと成績が揮わなかった貴晴くんの伸びしろは大きい。上手くやる気にさせたことで点数自体はすぐに上向いたわけだが、きっと大変なのはここからだ。
 とはいえ、今は素直に喜んだっていいだろう。初めてプレッシャーを感じたらしいこの模試で、勉強した分がそのまま点数に反映されたのだから彼の本番力も褒めてあげたい。
「やったじゃん」
 スマホを持っていない彼の左手に右手を合わせ、小さくハイタッチをした。
「あ、お母さんにも報告する?」
「うん」
 一度素直に頷いてから、貴晴くんは反抗期がぶり返したように「いや、でも」としり込みしてみせる。
「いいよ。後で」
 やっぱり兄貴よりずっと可愛いな。と、つい余計なことを考えてから彼の背中を押してやる。
「授業を始めたらもう次に意識を向けないといけないから、喜べるのは今だけだよ」
「えー」
「ほら、行っとこう」
 文乃さんの姿を探すと、彼女は応接室にいた。
 来客中なら仕方ない。後にしようかと貴晴くんに告げようとした時、彼がうっすらと開けた襖の隙間から中の様子が目に映る。
 そこにいたのは藤宮麗さんだった。
「え?」
「……深雪先生?」
 気になった途端、また考えなしの行動が炸裂してしまった。
 戸惑う貴晴くんを押しのけるようにして襖に手をかけ、一気に開いた。中にいた二人の視線が同時にこちらに突き刺さる。
「深雪さん?」