みたいなもの、と自称する辺りやはり副社長なのだろうが、ただの同僚でもおかしくない距離感で私たちはラーメンをすする。
 うん、普通に美味しい。今日はどちらかといえば自分の土俵にいるのだし、変に緊張することもない。アツアツの麺を伸びる前にいただきたい料理のためしばらくは黙々と食べ進めていたが、やがて彼がぼそりと尋ねた。
「貴晴の家庭教師をやるって、ホント?」
「……何で知ってるの?」
「本人から聞いた」
 話したのは母親ではなく弟だそう。確かに文乃さんの口からは、私のことは話題にしづらい気がする。
「何がどうしてそうなったんだ?」
「奈央子が私の学歴を文乃さんにアピールしたら、向こうからお願いしますって感じに」
「できるの?」
 貴博さんの視線が思いのほか険しかったので、こちらもちょっと強気に出てみた。
「これでも私、東大卒なんで」
「知ってる」
「そうなの?」
 どうやら篠目社長が私を呼び出す際に行った内偵調査の流れで、彼も私の経歴は目にしていたらしい。脚本家にとって学歴は不要とまでは言わないが、正直あってもなくても困らないものなので、これまで話題に上ることはなかった。
「劇団カフェオレも地味に高学歴集団ってことだよな。学生時代の伝手で人を集めると大概偏差値が偏る」