「やっぱりAラインっていいですね。ひらひらしていて可愛いです」
 適当なことを言いながらウェディングドレスを手に取る奈央子に、清潔感あふれる女性スタッフがニコニコと相槌を打つ。
「はい、こちら新作ですごく人気なんですよ」
 唐突に連れてこられたウェディング衣装の専門店で、ずらりと並ぶ純白のドレスたちに私は圧倒されていた。しかし後輩はまるで自分が結婚するかのように、手にしたドレスを自分の身体にあてがっている。
「普段ここまで肩とか背中とか出すことってないけど、花嫁衣装は特別ですもんね。深雪さん、どう思います?」
「へ?」
「スカートのシルエットが可愛らしい分、上半身はすっきりしたデザインだそうです。先輩ならこんな感じが似合うんじゃないですか?」
 一歩こちらに近づいて、その先は店員に聞こえないよう耳打ちする。
「ウチで作ることを考えても、ぴったりサイズは怖いし布面積は減らしたいから、この辺りが落としどころだと思います」
「はあ?」
 思わず拒絶するような態度を取ってしまった。
 その反応に店員も怪訝な表情を浮かべたが、奈央子は気にしない。得意のアドリブでさらりとフォローを入れる。
「実は結婚の予定があるのは先輩の方なんです。だけどこの人、急に怖くなっちゃったのか彼氏からのプロポーズにまだちゃんと答えられてなくて。だから今日はちょっとでも背中を押せたらと、半ば無理やり連れてきたんですよ」