だけど、最初から薄々分かっていたことでもなかったか。
 貴博さんは愛ではなく理屈で私を選んだ。人として、脚本家としての興味が先にあり、女として必要とされているわけではない。
「やっぱりその取引、私は乗れません」
「え?」
 分かってはいても、やはりショックだった。
 私の愛情は一方通行で、同じものを貴博さんに求めることはできないのだ。
「貴博さん、舞台の稽古していた頃にも言いましたよね」
 アドリブが下手なら、せめて素直になりたかった。あなたのことが好きだから捨てないでほしい、愛してほしいと叫びたかったのに――。
「みんながみんな、あなたみたいに上手く割り切れないんです。甘いと思われるかもしれませんけど、お芝居において良好な人間関係は必須ですから、わだかまりが残りそうなやり方は避けたいです」
 格好つけてそう言って、私は席を立っていた。