「ついでにもう一つ教えてもらいたいんだけど、あなたと貴博さんってどういう関係なの?」
「へ?」
「だって彼、お見合い相手の顔に泥を塗ってまで婚約者だと主張したくせに、この状況で一番大事なことは口にしなかったじゃない」
 無視しておけばいいものを、反射的に聞き返してしまう。
「一番大事なこと?」
「例えば――俺たち愛し合っているんだ、とか」
 ドキリとした。
 動揺した私を見て、すかさず追い討ちをかける。
「あなたへの評価は『面白い女』だったし」
「……それが、貴博さんなりの愛情表現なんです」
「へえ」
 嫌な予感がする。このまま彼女と対峙していても、ろくなことにならないだろう。
 けれどもトイレという狭い空間で、姿勢よく仁王立ちになっている麗さんの脇を突破できる気もしなかった。
「深雪さん、脚本家なんですって?」
「何で知って……?」
 とっさに尋ねてから気が付いた。
 ついさっき貴博さんが話していたではないか。私自身、劇団の文脈がなければ使用しない肩書なので、あんまりしっくりはこないのだけど。
「将来有望って、いったい誰に見込まれているのかしらね?」
 ものすごく見下した物言いである。
 貴博さんとアマチュア劇団のメンバーが応援してくれている。そう返したところで、また鼻で笑われるだけだろう。
 何も言えずに立ち尽くしていると、再び麗さんが口を開く。