貴博さんが少しイライラしてきている。母と息子の戦いについていけずに視線を逸らすと、ふと麗さんと目が合った。
彼女は値踏みするようにこちらを睨みつけていた。
「!」
こんな応酬を見せつけられたら「ちょっと待った」と割り込みたくもなるだろう。まさかお見合い相手が他の女を連れてくるとは思わないし、そろそろ怒り出してもおかしくはない。実際、彼女の視線にはかなりの怒気が含まれていたように思う。
しかし麗さんは静観を決め込んでいる。それは怒りを露わにするのははしたないという育ちの良さによるものか、あるいは――。
「麗さんは」
気付くと私は言葉を発していた。貴博さんがハッとしたようにこちらへ振り返る。
「どう思いますか? お見合いに婚約者を連れてくる男」
「……婚約者って」
「あ、今のは別にマウントを取ったわけじゃなくて」
言い訳を口にする前に、麗さんは小さく頷いた。
「あなたが最初に私を気にかけてくださるのね」
そして隠し持っていた言葉のナイフを振りかざす。
「あなたさえいなければ、私は普通にお見合いをして、普通に結婚できたかもしれないのに」
おっしゃる通り。
「でも彼、こういう男なので」
普通の結婚なんかできない偏屈な男だと言外に伝えると、麗さんは曖昧に微笑んで答えを回避した。
どうやら彼女、まだこのお見合いをナシとはジャッジしていないらしい。
彼女は値踏みするようにこちらを睨みつけていた。
「!」
こんな応酬を見せつけられたら「ちょっと待った」と割り込みたくもなるだろう。まさかお見合い相手が他の女を連れてくるとは思わないし、そろそろ怒り出してもおかしくはない。実際、彼女の視線にはかなりの怒気が含まれていたように思う。
しかし麗さんは静観を決め込んでいる。それは怒りを露わにするのははしたないという育ちの良さによるものか、あるいは――。
「麗さんは」
気付くと私は言葉を発していた。貴博さんがハッとしたようにこちらへ振り返る。
「どう思いますか? お見合いに婚約者を連れてくる男」
「……婚約者って」
「あ、今のは別にマウントを取ったわけじゃなくて」
言い訳を口にする前に、麗さんは小さく頷いた。
「あなたが最初に私を気にかけてくださるのね」
そして隠し持っていた言葉のナイフを振りかざす。
「あなたさえいなければ、私は普通にお見合いをして、普通に結婚できたかもしれないのに」
おっしゃる通り。
「でも彼、こういう男なので」
普通の結婚なんかできない偏屈な男だと言外に伝えると、麗さんは曖昧に微笑んで答えを回避した。
どうやら彼女、まだこのお見合いをナシとはジャッジしていないらしい。
