スカウトしたはずのイケメン御曹司からプロポーズされました

 当のお見合い相手を前にして文乃さんが堂々と言う。息子さえその気にさせてしまえば、女性の方から断られることはないと確信しているらしい。そして息子の気を引くために選んだのが梨園のお嬢様――。
 やはり彼が私のような売れない脚本家を「面白い」と評価したことが人選に影響しているのだろうか。
「くだらない」
 ぽつりと彼の口からこぼれ落ちた言葉は、たぶん、隣に座っていた私の耳にしか届かなかったと思う。
「お母さん、俺はもう結婚相手を決めてるんだから、誰を連れてきても同じだし無意味なんだって」
 それを聞いた文乃さんは、こちらに一瞥をくれて鼻で笑う。
「だって、越智さんは――」
「将来有望な脚本家で、ササメの社員だから身元もしっかりしていて、隣にいて一生飽きない面白い女だ。何度もそう話しただろう?」
 何度も話してくれているのか。今更ながら貴博さんの本気が伺える。そして文乃さんの本気も。
「お芝居のことなら麗さんの方がお詳しいでしょう。私にはよく分からないけど、貴博が興味があるなら」
「そうじゃなくて」
「結婚したら家庭を守ってもらわないといけないでしょう。そういう意味では、前に紹介したお嬢さんたちよりむしろ麗さんの方がいいとも思ったの。やっぱり育った環境が違うから、すごくしっかりしていらっしゃるわ」
「俺は別に」