つくづく彼は物好きで、私は幸運だったと思い知る。もし出会う前から勤め先の御曹司の顔を知っていたら、スカウトなんかできなかっただろう。
「こら貴博、麗さんは歌舞伎役者の宮川辰之助さんのところのお嬢さんでね――」
しかし文乃さんもぶれない。目の前に座る大和撫子が由緒正しいお嬢様で、かつ、貴博さんの「面白い」センサーに引っ掛かりそうな業界の人間であるということをものすごい勢いでアピールしている。
要するに貴博さんの物好きなところは父親似で、自信過剰にも見える気の強さは母親似ということか。そんな面倒なところばかり受け継がなくてもいいだろうに。
「今も舞台のお仕事をしていらっしゃるんでしょう?」
文乃さんの振りに、藤宮麗さんがニコッと笑顔で答えた。
「ええ、演出のお手伝いを」
やっぱり美人だ……と見惚れてしまってから今語られた内容を反芻する。
宮川辰之助といえば歌舞伎界のビッグネームの一人だが、一族まるっと芸名を使う業界なので本名が藤宮だとは知らなかった。
その血筋なら美しさは折り紙付きだろう。女優と言われても納得だし、ひょっとして彼女も子供の頃は宮川何某を名乗って舞台に立ったりしたのだろうか。一人の脚本家志望として、私の方が興味が湧いてしまいそうだ。
「麗さんなら家のことも安心して任せられるし、今まで貴博が断ってきた『つまらない』女とも違うと思うの」
「こら貴博、麗さんは歌舞伎役者の宮川辰之助さんのところのお嬢さんでね――」
しかし文乃さんもぶれない。目の前に座る大和撫子が由緒正しいお嬢様で、かつ、貴博さんの「面白い」センサーに引っ掛かりそうな業界の人間であるということをものすごい勢いでアピールしている。
要するに貴博さんの物好きなところは父親似で、自信過剰にも見える気の強さは母親似ということか。そんな面倒なところばかり受け継がなくてもいいだろうに。
「今も舞台のお仕事をしていらっしゃるんでしょう?」
文乃さんの振りに、藤宮麗さんがニコッと笑顔で答えた。
「ええ、演出のお手伝いを」
やっぱり美人だ……と見惚れてしまってから今語られた内容を反芻する。
宮川辰之助といえば歌舞伎界のビッグネームの一人だが、一族まるっと芸名を使う業界なので本名が藤宮だとは知らなかった。
その血筋なら美しさは折り紙付きだろう。女優と言われても納得だし、ひょっとして彼女も子供の頃は宮川何某を名乗って舞台に立ったりしたのだろうか。一人の脚本家志望として、私の方が興味が湧いてしまいそうだ。
「麗さんなら家のことも安心して任せられるし、今まで貴博が断ってきた『つまらない』女とも違うと思うの」
