今度こそ話を付けるからと、貴博さんが私を連れてきた場所は星でも付いていそうな高級レストランだった。実家に突撃してケンカ別れをしたばかりなのに、これほどきちっとしたアポを取り付けてくれるとは思わなかった。
「よくあのお母様を口説けたね」
 ハイセンスな店構えを前につい心の声を漏らすと、貴博さんは不機嫌そうに鼻を鳴らした。
「いや、今回は母親からの呼び出し」
「え?」
「深雪が来るとは言ってない」
 どういうことかと問えば、彼はなんとも苦い表情を浮かべた。
「また次の見合い相手でも見繕ってきたんだろう。ホント分かりやすい人だよな」
「……つまり、ここはお見合い会場ってこと?」
 恐る恐る尋ねると、貴博さんは鷹揚に頷いた。
「何も聞かされてないけど、九分九厘そうだと思ってる。まあ、入ってみれば分かるだろう」
 いやいや。
「それでどうして私を連れてきたの?」
「だから、母親と話すため。深雪ももう一度会いたがってたし」
 確かにお目には掛かりたい、というか、掛からねばと思っていた。だが、物事には大概段取りというものが必要である。
「俺から深雪の話をしようとしても、なかなか取り合ってもらえないからさ。今日は向こうから呼び出してくれたから、確実に会って話ができるだろう」
「だけど、その……お見合い相手もいるわけでしょう?」