「花嫁をかっさらいに来た幼馴染の役で、深雪と一緒に消えるんだ」
 衝撃で声を失った私の隣で、奈央子が歓声を上げた。
「何それめっちゃ面白いじゃないですか!」
「だろ? あくまで失敗しそうになった時の回避策にはなるけれど」
 今日イチの笑顔を見せる先輩に危機感を覚えた。
 何が怖いって、私もイメージできてしまったのだ。貴博さんとの結婚式を舞台として盛り上げる演出を。なんなら勇也さんとドラマチックに会場を抜け出す方法まで思い付いてしまった。
 ……ああ、脚本家の想像力が恐ろしい。
「ダメですよ、そんなの。そもそも失敗なんかしませんから」
「やるの?」
 勇也さんがニヤリと笑う。
「いやいや、舞台じゃなくて……そのうちちゃんとした結婚式をカフェオレのみんなも招待してやりますから」
 今まで舞台を通して私は波乱万丈な人生をいくつも追体験してきた。だから自分の結婚式くらい、幸せな予定調和でごくありふれたものにしたい。
 第一、既成事実のゴリ押しなんて上手くいくわけがないのだ。
 ただでさえ愛があるのかも怪しい結婚なのに――。
「私は貴博さんが好きなんです。この気持ちはネタにできません」
 それを忘れて彼を都合のいいパトロンにしてしまったら、私はきっと後悔する。そんな気がした。