スカウトしたはずのイケメン御曹司からプロポーズされました

 既に半分くらい事情を知っている奈央子を急遽呼び出したら、顔を合わせた途端に生温かい目をされた。
 というわけで私は今、劇団カフェオレ御用達の居酒屋で向かいに勇也さん、隣に奈央子という布陣でボックス席に腰を据え、ハイボール片手に無様な恋バナを披露しようとしている。
「ご心配をお掛けしてすみません。でも、今回はネタが思いつかないということではなくて、今後の演劇活動そのものについて考えていたところで」
「どういうこと?」
「実は私、結婚するかもしれなくて――」
 千秋楽の夜に貴博さんからプロポーズされた。実は彼は勤め先の御曹司で、結婚の圧から逃げ回っていたらしい。女としてより脚本家として興味を持たれている自分が彼と結婚するならば、家庭に入るどころかプロを目指すのが既定路線である。そして具体的な話は何一つ進んでいないけれども、貴博さんからは既に婚約者として扱われている。
 そういったことを、順を追って説明していく。今日は相手が黙って聞いてくれるから、私もしっかり頭の中で台詞を組み立てることができた気がする。
「深雪の話は分かったけど、どうして次回公演に待ったが掛かるの? 創作活動はむしろ本腰入れてやりたいってことだよね?」