スカウトしたはずのイケメン御曹司からプロポーズされました

 実年齢は私が二十九歳で奈央子が二十七歳だけど、見た目の印象でいうと奈央子は更に若い。もちろんそれはアングラでも女優を続ける彼女の意識と努力の賜物なのだが、三十歳という大台を意識し始めた「アラサー女子」にしては幼く見えるという彼の指摘も、現時点では間違っていない。
「まあ見ててください。役に入ったらこの子もグッと大人っぽくなりますから」
 ウチの看板女優を売り込んでから、この機会に聞いてみる。
「ところで、そういう貴博さんはおいくつなんですか?」
「三十歳」
 アラウンドどころかドンピシャだったらしい。
「だからコンセプトは俺もよく分かる。『もう大人なんだから』も『まだ若いんだから』も飽きるほど聞いたし、現状に不満はないのに周りがやんや言い始める年頃だろう?」
「そう、それ!」
 思わず声が上ずった。当の我々は実感のないまま数字に踊らされていると、貴博さんもそこは同意見のようだ。
「自分の年齢に密かに焦りはあるけれど、何を言われようが結局は目の前のことで手一杯なんですよね。それが私にとっては――ユメにとっては原稿だったということです」
 しかしユメには創作仲間がいない。だから代わりにヒロがいる。物語冒頭の彼は、いつでも黙って話を聞いてくれる彼女にとって理想の男、もとい都合のいい男である。
「どこにも明記はしていませんが、私の想定ではヒロはいわゆるイマジナリーフレンドなんです」