その衝撃的な光景を、私は、越智(おち)深雪(みゆき)は偶然にも視界に捉えてしまった。
 現場は都内のビルに入った喫茶店。
 窓の外にちらほらと雪が舞う昼下がり、脱いだコートをカバン諸共隣に追いやって、私はコーヒーをお供に作業中だった。
 しかし既に意識はテーブルの上のノートパソコンではなく、一人の男に向かっていた。テーブルを挟んだ奥のボックスシートに座る、名前も知らぬイケメンに、見惚れていたといって差し支えはないだろう。
 そう、遠目にも彼は美形だった。年齢は私と同じくらい、三十前後だろうとあたりをつけてみる。
 男の向かいには女性がいた。イケメンに恋人がいることにさして不思議はないが、何を話しているのかと無謀にも聞き耳を立てたまさにその時、事件は起こった。
 彼女が唐突に席を立ち、彼に向ってグラスの水をぶっかけたのである。
 ……嘘でしょ?
 なみなみと残っていた水が宙を舞う様を、私は食い入るように見つめていた。それどころか、彼女が立ち去っていく間も彼から目が離せない。おかげで二つ目の事件を起こしてしまった。
 ……あ。
 目が合った瞬間、まずいと思った。
 こちらに気付いた彼がつかつかと歩み寄ってくる。
「おい」
 茶色みがかった美しい瞳に見下ろされ、私の心臓は跳ね上がった。