八月十二日

 理不尽だ。心臓は鼓動を速め、頬と目は高熱を放ち喉は乾き、手は今でも微かに震えている。
 デートの最中、私がノロノロと歩いていたら、通行の邪魔になっていたらしく、早瀬君が私の手を引いて誘導してくれたのだ。がしかぁし!近かった。
 何が近いって顔が凄く近かった。私が数センチ顔を前に出すだけで唇が触れてしまいそうな距離で、少しの間時が止まってしまった。
 それから、それからどうしたのだろうか、思い出せない。早瀬君が駅まで送ってくれた以外はずっと下を向いていた以外思い出せない。折角のデートがこれでは台無しではないか。私の馬鹿。