神殺しのクロノスタシスⅤ〜後編〜

探索魔法のプロであるエリュティアの手に掛かれば、シュニィの行方はすぐに掴めるはず。

…そう、軽く考えていた。

しかし、事態はそんなに簡単ではなかった。

エリュティアの顔は暗く、そんなエリュティアの心を読んだらしいナジュも、険しい顔だった。

…え、ちょっと待てよ。

二人してそんな顔して。それはつまり…。

「…済みません、アトラス団長。…シュニィさん、見つけられませんでした」

ま…。

…マジかよ?

エリュティアが見つけられなかったことに驚き、そしてエリュティアがアトラスを恐れず、その悪い報告を口にしたことに称賛を送りたい気分だった。

よく言ったよ。

危うく逆ギレされて、ぶっ飛ばされてもおかしくないところだった。

ちらりとアトラスの方を見て、俺は卒倒しそうになるのを必死に堪えなければならなかった。
 
鬼の形相、というのはこういう顔を指すのだろうな。

地獄の閻魔ですら、こんな恐ろしい顔はしていないだろう。

「み、見つからなかった…?本当に…?」

「…はい」

「…そんな…」

これには、シルナも驚いていた。

あの探索魔法のプロが、5時間近くかけて探索魔法を使ってシュニィの居場所を探し。

居所を掴むどころか、見つけられなかったとお手上げ状態とは。

冗談だろ?

「…言っておくが、彼の力不足じゃない」

悔しそうに唇を噛み締めるエリュティアの後ろから、彼に付き添っていた無闇が姿を現した。

「これでも、やれるだけのことはやったんだ」

「エリュティア君の力不足だなんて思ってないよ。でも…一体何があったの?」

シルナがそう尋ねた。

エリュティアの力不足だと責めるつもりはない。

誰がそんなことを出来ようか。

エリュティアが探して無理なんだったら、そりゃもう誰が探しても見つけられないよ。

令月とすぐりも、頑張って探してくれているとは思うが…。

「実は…『痕跡』が全く残ってないんです」

エリュティアは、苦虫を噛み潰したような顔でそう言った。

…何?

「『痕跡』が残ってない…?」

「はい。シュニィ隊長の部屋も、それどころか魔導隊舎の近辺からも、全くシュニィ隊長の『痕跡』が残っていなくて…」

「…」

「まるで、徹底的に『痕跡』を消して回ったように…。不自然なほどに」

…それは、つまり。

犯人はこちら側に探索魔法のプロがいると知って、敢えて誘拐の「痕跡」を消したということか。

足跡や指紋を消すだけじゃないぞ。

エリュティアの探索魔法は、その場に残った人の気配や、残留思念のようなものを「痕跡」に、当該人物の居場所を探ることが出来る。

俺だって、エリュティアの探索魔法に引っ掛からないように「痕跡」を消せ、と言われたらお手上げだからな。

それくらい、どんなか細い「痕跡」でさえ手掛かりにして居場所を探るのが、エリュティアの探索魔法だ。

それなのに…。

そんなエリュティアが5時間近くかけて、犯人の「痕跡」すら見つけられないとは。

素人の犯行じゃないのは確かだ。

…ますます、考えたくないことを考えてしまうな。