――――――…時を遡ること、3時間前。






私はそのとき、聖魔騎士団魔導部隊隊舎にある自分の執務室で、書類仕事に勤しんでいた。

「…ふぅ…」

溜まった書類仕事が一段落して、私は肩と首をぐるりと回して、凝り固まった筋肉をほぐした。
 
この後の大隊会議までに、何とか間に合いましたね。

お陰で今日は、残業はせずに済みそうだ。

聖魔騎士団副団長ともあろう者が残業を嫌がるなんて、と思われるかもしれないけど。

許して欲しい。子供達が、私の帰りを待っているから。

私は、デスクの上に飾った写真立てを見つめた。

そこには、この間のアイナの誕生パーティーの写真が飾ってあった。

アイナは誕生日プレゼントの真新しいワンピースを着て、小さな腕で弟のレグルスを抱いて、得意げな笑顔で写真に写っていた。

「…ふふ、可愛い」

それを見て、私は思わず顔を綻ばせてしまった。

アトラスさんに負けず劣らず、私も親馬鹿ですね。

この子達が家で待っていると思うと、残業なんてしていられません。

しかし。

その後私は、残業どころではない事態に巻き込まれることになるのだった。

…「それ」は、唐突にやって来た。




窓の外から、カリカリと爪を立てるような音がした。

「…え?」

窓の方を見ると、ガラスの向こうのバルコニーに、一匹の猫がいた。