神殺しのクロノスタシスⅤ〜後編〜

まず、少しでも落ち着いて情報を整理しよう。

「シュニィが攫われたって言ったが、本当に攫われたのか?自分から姿を消したって線は…」

「俺も現場を見た訳じゃないから、何とも…。でも、魔導隊舎の自分の部屋にいたはずなのに、いつの間にか姿が消えてたらしい」

「…」

「大隊会議の時間になってもシュニィが来ないから、部下の一人が部屋を訪ねたところ…部屋の中はもぬけの殻で、窓が開けっ放しになってたそうだ」

…それはまた…。

…いかにも、って感じだな。

「揉み合った形跡は?」

「揉み合った…のかは分からんが、机の上に筆記用具やら書類が散乱して、椅子もひっくり返ってた」

成程。

多少の抵抗はした…と思って間違いないだろう。

だが、魔法を使って派手にドンパチした訳ではなさそうだ。

シュニィが派手に魔法使ったら、さすがに周りが気づくだろうから。

多少は抵抗したけど、魔法を使ってまで反撃することは出来なかった…。

「それにさぁ、あのシュニィが、無責任に全部投げ捨てて家出すると思うか?」

「…だよな」

今のシュニィに、家出をする理由などない…はずだ。

本人じゃないから、シュニィの悩みを全て理解することは出来ないが…。

アトラスの過保護ぶりに嫌気が差したので、ちょっと実家に帰らせていただきます。という可能性は有り得るが。

シュニィに帰る実家はないはずだし…。

あの責任感の塊みたいなシュニィが、部下に何も言わず、勝手に家出するとは思えない。

人様の迷惑になると分かっていて、自分の我儘を優先するような奴じゃない。

何より、シュニィには可愛い二人の子供がいる。

アイナとレグルスの二人が。

あの二人の子供達を置いて、シュニィが自ら行方を晦ますなど有り得ない。

家出するにしても、子供達は連れて行くはずだよ。

それなのに、子供達すら置き去りにして、誰にも何も言わずに忽然と姿を消した…。

シュニィが自らの意志で出ていった訳じゃない。

何かしら事件性があると考えて良いだろう。

わざとらしく窓が開いていたなら、余計にな。

「しかし、何だってシュニィを…?」

「彼女は聖魔騎士団魔導部隊の隊長で、聖魔騎士団副団長でしょう。それだけで、誘拐の理由は充分では?」

と、イレース。

まぁ、そうかもしれないけど…。

おまけに、聖魔騎士団団長の妻でもある訳だから。

ルーデュニア聖王国においては、かなりの「有名人」と言って良い。

誘拐される理由はそれだけで充分…なのは分かるけども。

「今のところ、目撃情報は無し。犯行声明もないし、身代金の要求もない」

お手上げといった様子で、キュレムが言った。

身代金の要求もないだと?

聖魔騎士団副団長を誘拐すれば、たんまりと身代金を要求出来る…と踏んで、事に及んだ訳ではなさそうだ。

じゃあ、何の為にシュニィを…。

「いっそ身代金目的の方がマシだったかもね」

令月が、さらっとそう言った。

おいおい。

「マシじゃないだろ。それだって大問題だ」

「何で?お金が目的なら可愛いものだよ。そのシュニィって人そのものが目的だったらどうするの?」

…え。

誘拐の目的が…シュニィそのもの?

「ルーデュニア聖王国の大物なんでしょ?その人。殺して晒し首にしたら、さぞや国内は荒れるだろーね」

令月に続けて、すぐりが恐ろしいことを言った。

アトラスか聞いてなくて、本当に助かったよ。

俺でさえ、背筋が冷たくなった。