「…ねぇ、ねぇ聞いてよ。チョコタルトなんだよ今日のおやつは。ねぇ。美味しいチョコタル、」

と、シルナが何か呟いてるような気がしたが。

「それであなた、今日は何しに来たんです?」

シルナの話などどうでも良いとばかりに、イレースが尋ねた。

実際どうでも良いしな。

「…天音君。皆がね、皆して私のこと無視するんだ。酷くない…!?いろりちゃんまで逃げるし。酷くない…!?」

「あ、はい。その、えーと…そうですね」 

天音に慰めてもらっていた。

よし、放っとこう。

世の中、シルナのおやつより大事なことは山ほどある。

ルディシアが学院を訪ねてきた理由、とかな。

「別に特別な理由はないよ。暇潰しに来ただけ」

「それなら帰りなさい。子供の暇潰しに付き合っている暇はありません」

イレース、一刀両断。

身も蓋もないとはこのこと。

お前な…少しくらい相手してやれよ。忙しいのは分かるけど…。

折角、紆余曲折ありながらも、ルーデュニア聖王国に根を下ろす気になったのに。

ひねくれたルディシアが、また出ていったらどうするんだ。

すると、ナジュが横から口を挟んだ。

「まぁまぁ、そう言わず付き合ってあげましょうよ。どうやら彼、言いたいことがあるようですし」

…言いたいこと?

…って、何だ?

「そうだよ!いくら忙しくても、チョコタルトを食べていく時間くらいはあ、」

「言いたいこと?何です。さっさと言いなさい」

シルナには絶対に喋らせないという、固い意志を感じる。

「…天音君。イレースちゃんがね、私の話を聞いてくれない」

「そ、そうですか…。げ、元気出してください」

天音がいて良かったな。面倒臭いだろうに、いつもちゃんと慰めてくれてさ。

天音は優しい奴だよ。

「ってゆーかさー。ずっと気になってることがあるんだけど」

…と、横槍を入れてきたのはすぐりである。

こいつ、令月と一緒に、ちゃっかりチョコタルトをもぐもぐしている。

別に食べたきゃ食べれば良いけど…。どうせシルナのおやつだし。

「君、こんなとこにいていーの?」

…え?

「どういう意味だよ?すぐり…」

「だって、その人自分の国を裏切ってきたんでしょ?」

「報復されるんじゃないの?」

すぐりと令月が、当たり前のような顔をしてそう言った。

…お前らの常識では、それが当たり前なんだろうな。

それは理解出来るけど…。

「確かに、今のところアーリヤット皇国からは音沙汰なしですね」

「ルディシアさんが裏切ったこと、バレててもおかしくないでしょうに。まだ気づいてないんでしょうか?」

「気づかれたら…やっぱり何か言ってくるかな?戻ってこいとか…」

イレース、ナジュ、天音の順でそう言った。

戻ってこい…と言われるくらいなら可愛いもんだろ。

最悪…、

「戻ってこいじゃないでしょ。裏切り者は死の制裁を受ける。それだけだよ」

…敢えて口に出さないようにしていた「最悪」を、令月は躊躇いなく口にした。

…容赦ないよな、お前ら。

だが、令月とすぐりの二人もまた、己の生まれ故郷を裏切った身。

今だって、いつ報復として『アメノミコト』の刺客が送られてくるか分からない。

そんな二人の言葉なら、重みが違うというものだ。