神殺しのクロノスタシスⅤ〜後編〜

かつて元の世界で、イーニシュフェルトの里があった場所には、今イーニシュフェルト魔導学院がある。

この世界でも同じで、里の跡地に学院が立っている。

その為、再建したという里の所在地は、本来の場所から少し離れていた。

が、多分その方が良いのだろう。

イーニシュフェルトの里は本来、余所者を嫌い、多種多様な魔法を研究するに当たって、秘匿性を何より重んじていた。

都会のど真ん中にあるより、山奥にひっそり存在する方が都合が良いのだ。色々とね。

その気遣いの結果なのだろう。

現在、再建された里は、王都セレーナから列車に乗り。
 
半日近くも揺られて、ようやく辿り着いた長閑な土地にあった。
 
長閑…と言えば聞こえは良いけど、要するに田舎だね。

そうしてやって来たのは、ルーデュニア聖王国の東方都市、トラーチェ。

私は知る由もなかったが、そこはかつて元の世界で、ベリクリーデちゃんが連れて行かれ、生き神様と祀られた場所。

桔梗谷という、小さな集落があった場所だった。
 
そこが、新しいイーニシュフェルトの里だった。

成程、山奥だし人気もないし、里を再建する場所としては最高だね。

普通の人なら気づかないだろうけど、早速、里の周囲を囲う山々に、結界が張り巡らせれている。

だけどその結界は、かつて本来のイーニシュフェルトの里で使われていたような、侵入者を阻む為の結界ではなく。

山の中に迷い込んだ者がいたら、すぐに場所が分かるように知らせる為の結界だった。

監視カメラみたいなものだ。入ってくる人がいたら、すぐに里の人々が感知出来るように。

…再建したばかりで、まだ人が少ないから…そこまで結界を強化する必要はない、ということだろうか?

何となく違和感を感じながら、私は里に入っていった。

私が足を踏み入れたことは、結界を通じて族長達も知っているはず。

山に入ってしばらく歩くと、そこに再建されたイーニシュフェルトの里があった。

「…ここが…」

私は思わず、立ち止まって里の景色を眺めてしまった。

…わざと、そのように作ったのだろうか?

この景色は、かつてのイーニシュフェルトの里をそのまま再現したようだった。

私の記憶にある…私の故郷と同じ。

でも、懐かしいとは思わなかった。

この場所を、素直に懐かしいと感じるほど…私の犯した罪は優しくなかった。

それなのに。

「聖賢者様、ようこそいらっしゃいました。お待ちしておりましたよ」

「…」

私が里に辿り着くなり、私を出迎えてくれたのは。

「…君、珠蓮君?」

「え?はい、そうですが…」

「…」
 
元の世界で、賢者の石の封印を守っていた、寿木珠蓮君だった。

何で珠蓮君が、この里に…と思ったけど。

彼の師匠であったイーサ・デルムトは、族長の旧友なんだっけ…。

その繋がりで、彼が里に居るのだろう。