神殺しのクロノスタシスⅤ〜後編〜

ヴァルシーナちゃんが言っていたことを、もっと詳しく知ろうと思った。

私は自分の机の引き出しを探り、何か手がかりがないかと調べてみた。

すると、すぐに見つかった。

大量の研究資料が挟み込まれた、分厚い黒いファイルが。
 
元の世界では見覚えのない、その黒いファイルに。

この世界の私が研究したらしい、死者蘇生の魔法に関する資料が綴じられていた。

私は一晩かけて、そのファイルを読み漁った。

そこには、かつて禁忌とされた…クュルナちゃんが失敗し、私自身もあまりに危険ということで、手を出さなかった魔法が。
 
死人をあの世から呼び戻す死者蘇生の魔法が、どのようにして行われるのかについて、書き記されていた。
 
紛れもなくその字は、私のものだった。

否定しようがない。この世界では確かに、私がこの魔法について研究していたのだ。

「…死者蘇生の魔法…」

…出来なくはない、と思っていた。ずっと。

イーニシュフェルトの里が滅びてからずっと、何度も考えてきたことだ。

多分、やろうと思ったら出来なくはないだろうと…。

自信があった訳じゃないけど、挑戦してみる価値はあると。

…だけど、私は敢えてこの魔法には手を出さなかった。

当然この魔法が禁忌だから、というのも理由の一つだが。

単純に私は、クュルナちゃんが何としても親友を生き返らせようとしたように。

どうしても生き返って欲しいと思う相手がいなかった。

神殺しの魔法の生贄となり、滅びた里の誰かを蘇らせることなんて、考えもしなかった。

ましてや、族長を蘇らせるなんて。

元の世界の私は、彼らの犠牲を無駄にして邪神を守るという選択をしたのだ。

里の皆に合わせる顔なんて、あるはずがない。

私が死者蘇生の魔法に手を出すとしたら、それは二十音の身に何かあったときだろう。

だけど、今のところ、有り難いことにそのような事態には至っていない。

故に、私はこれまで、一度も死者蘇生の魔法に手を出したことはなかった。

これからも…そうであって欲しいと思っていたのだが。

どうやら、この世界では違ったようだね。

正しい選択をして、二十音ごと邪神を殺し。

私はルーデュニア聖王国を建国し、こうして学院を創立し…。

そして、イーニシュフェルトの里を再建させ。

更に…死者蘇生の魔法を研究し、死んだ族長を蘇らせた。

正しい選択をした世界の私は、こんなことをしていたんだ。

そりゃあ聖賢者だと呼ばれるだろうし、救世主だと持て囃されもする。

まるで、優等生の模範解答みたいな人生じゃないか。

それって、凄く空虚じゃないか?

その代わりに手にしたのは、「自分は正しい選択をしたのだ」という、自己満足にまみれた虚栄心のみ…。

…そんなものが欲しかったんじゃない。私は。

私が隣に求めたのは、ヴァルシーナちゃんでも、自己満足の正しさでもないのだ。