神殺しのクロノスタシスⅤ〜後編〜

…有り得ない。

するとヴァルシーナちゃんは、何を思ったか。

「あぁ…。そうか、シルナ様は邪神の生贄にした子供のこと、気にされてたんですよね」 

邪神の生贄にした子供。

それこそ、紛れもなく私の二十音のことだ。

「その子のことは…可哀想でしたけど、でも、必要な犠牲だったと思います」

…何を言ってるんだ、この子は…。

「シルナ様、あなたは正しい選択をしたんです。その子が生贄になってくれたお陰で邪神を倒し、結果的に大勢の人が救われたのですから」

何を言ってるんだ。

この私が、そんな風に思うはずがない。

「気に病む必要はありません。その子もきっと…シルナ様を恨んではいないはずですよ」

何を言ってるんだって、さっきから。

二十音が私を恨むかどうかなんて、どうでも良い。

この私が、自分を許せないだけだよ。

「邪神を滅ぼし、ルーデュニア聖王国を建国し、イーニシュフェルト魔導学院を創立すると共に、過去に滅びたイーニシュフェルトの里を再建し…」

ヴァルシーナちゃんは、私がこの世界で打ち立てた、立派な「偉業」をつらつらと並べ立てた。

本当の私だったら、絶対にしなかったであろうことも。

「そして、人の為になる魔法を長い間研究し…。ついに、かつては禁忌とされた死者蘇生の魔法を完成させました」

「…!」

…死者蘇生。

やっぱり、さっき蘇生って言ってたのは…本当に、死者蘇生のことだったのか。

この世界の私は、死者蘇生の魔法を研究し、しかも完成させていたのか。

「そのお陰で、私はもう一度、お祖父様に再会することが出来ました。これからもっと死者蘇生の魔法が広く普及すれば、私のように、大切な人に再会して救われる人が大勢増えることでしょう」

「…広く普及させてはいけない魔法だよ、それは」

人は死ななければならない。死んであの世に行ってなお、戻ってきてはいけない。

永遠の命なんて…本来、人が持っていてはいけないものなのだ。
 
元の世界で、永遠の命を望まずに与えられてしまったナジュ君がどうなったか、思い出してみると良い。

…って言っても、このヴァルシーナちゃんには、知る由もないか。

「勿論、分かっています。使用は慎重にならないといけないことは…。ですが、術者はシルナ様ですから。シルナ様なら、どのような魔法でも、どのようなときでも、正しい選択が出来ると確信しています」

それは買い被りだよ。

本当の私は、正しい選択なんて一つも出来なかった。

「私、これからが楽しみで堪らないんです」

と、ヴァルシーナちゃんは笑った。

元の世界では、決して見せることのなかったであろう笑顔。

「お祖父様も生き返られましたし、シルナ様が主導して、このイーニシュフェルトの里は…いえ、ルーデュニア聖王国は、聖賢者シルナ様のもとで、これからもっともっと発展していくことでしょう」

「…」

「そのお手伝いを、シルナ様の一番近くで出来ること、とても光栄に思っています。シルナ様に比べたら私は頼りないですけど、何かあったら何でも相談してくださいね」

…相談…ね。

この世界は幻であって現実じゃない、と相談したら。

きっと君は、とても信じないだろうね。

…相談どころじゃないよ。