なかなかに、舐められたものだなぁ…。

「幻は、所詮幻だよ。夢はいずれ覚める」

だって、それは現実じゃないから。

現実はいつだって残酷だからね。私達が夢を見続けることを許さない。

ずっと夢を見ていたくたって、いずれは現実に帰る時が来る。

そういうものだよ。

「果たして、そうでしょうか」

…何?

「あなたも羽久・グラスフィアも、幻から覚めることはないでしょう」

「あなた達二人は、互いのいない幸福な夢の中で生き続ける」

「そしていずれ、忘れるのです。互いが存在していたことも」

「幸福の誘惑には、誰しも抗えないものですから」

ハクロとコクロは、順々にそう告げた。

幻から覚めることはないって…それはどういう意味、かと。

…聞いている余裕はなさそうだね。

「何があっても帰ってくるよ、私は」

「なら、言葉だけでなく行動で証明することです」

そう言って、ハクロとコクロは再び杖を振った。

その瞬間。

私もまた、意識が遠退いた。

これは…幻覚魔法だろうか、それも催眠魔法の類だろうか。

頭の隅っこでは、冷静に状況を判断しようとしているのに。

意識を失う最後の瞬間まで、私が見ていたのは。

ハクロでもコクロでも、他の仲間達でもなく。

私の腕の中で眠り続ける、羽久の顔だけだった。

夢でも幻でも現実でも、君が居る場所なら何処でも良い。

そこが、私の居場所だから。