――――――…アーリヤット皇国との決闘、三回戦が始まるや否や。

ハクロとコクロの二人が杖を振った瞬間、羽久は気を失って、その場に崩れ落ちた。

「羽久…!羽久、大丈夫…!?しっかりして…!」

慌てて羽久を抱き起こして揺すってみたけど、羽久の瞼は固く閉じられたままだった。

…わざわざ二人がかりで、私と羽久の二人を指名してきたからには、何か策があるんだろうとは思っていたけど。

まさか、こんな一瞬でカタをつけに来るとは。

決闘の勝敗なんてどうでも良いけど、羽久が二度と目を覚まさない…とかいう顛末は遠慮したい。

「…君達、羽久に何をしたの?」

羽久が、私の居ない「幸福な世界」に飛ばされるとは知らず。

私は眠る羽久を腕に抱いたまま、ハクロとコクロの二人に尋ねた。

「これで戦闘不能だから、君達の勝ちだって言いたいの?」

「いいえ、そんなつもりはありません」

白い髪の方、ハクロが答えた。

「彼はただ、幻を見ているだけです」

…幻、か。

そんなことだろうと思った。

この二人が使う魔法は、相手を眠らせるとか幻を見せるという、精神攻撃の類なのだろう。

単純に攻撃力の高い魔法より、余程タチが悪い。

これまでも何度か経験したことがあるけど…一番厄介なパターンだね。

「幻か…」

一体、どんな幻を見ているんだろうね。

それが幸福な夢であろうと、不幸な夢であろうと関係ない。

いずれにしても、現実じゃないのだから。

「…君を倒せば、羽久は幻から覚めるのかな?」

私は、ハクロに向かって尋ねた。

しかし、答えたのはハクロではなく。

「いいえ、あなたも同じように、これから幻を見てもらいます」

双子の黒い髪の方…コクロだった。

「二人揃って、無事に幻から覚めて現実に帰ってくることが出来たら、この決闘はあなた方の勝ち」

「ですが、もし帰ってこられなかったら…私達の勝ちです」

…成程。

それはシンプルで面白いね。

でも、果たしてナツキ様がそれを認めてくれるかな?

「…」

私はちらりとナツキ様の方を見たけど、彼は無言で、つまらなさそうにこちらを眺めるだけだった。

…好きにしろ、ってところかな。

それとも、自分の部下を信用しているのだろうか?

どうやらハクロとコクロは、ナツキ様の懐刀のようだし。

自信があるんだろうね。私と羽久が…二度と幻から覚めることがないだろうと、確信しているが故の余裕だ。