神殺しのクロノスタシスⅤ〜後編〜

なんとも複雑な思いだった。

元の世界でもシュニィは、言うまでもなくとても優秀な魔導師だった。

だけど彼女はアルデン人という、世間から差別される人種として生まれたせいで、なかなか万人に受け入れてもらえなかった。

シュニィを認める者は多いけど、実はその裏で。

「アルデン人の癖に」とか、「アルデン人が聖魔騎士団副団長になるなんて」とか、未だにそんなつまらない陰口を叩く連中も、まだ大勢いる。

そんなことがアトラスの耳に入ったら、地獄の底まで追いかけられるから、アトラスの前では皆黙ってるけどな。

当然、シュニィもそのことは分かっているだろう。

シュニィは充分に実力のある魔導師なのに、その生まれのせいで、何度も割を食ってきた。

シュニィ自身は何も言わないけれど、気にしていない訳じゃないだろう。

だけど、この世界のシュニィは。

アルデン人だからといって、全く差別されている様子はなかった。

イーニシュフェルト魔導学院の学院長に抜擢されているのが、何よりその証拠だ。

シュニィが国中の誰からも認められ、尊敬されている。そのこと自体は、俺だって嬉しい。

シュニィだけじゃない。

クュルナも吐月も、エリュティアも無闇も。

キュレムもルイーシュも、ジュリスとベリクリーデ…は、あまり変わってなかったけど。

彼らはいずれも、元の世界の彼らよりも幸せそうだった。

イレースや天音も、ナジュも。

令月もすぐりも、マシュリさえも。

あれだけ仲が悪かったはずのフユリ様とナツキ様兄妹でさえ、仲良く手を取り合っているというのだ。

この分じゃ、他の連中も…。

ルディシアや珠蓮や、ヴァルシーナでさえ。

とにかく、元の世界で俺とシルナに関わった、全ての人物が。

この世界の方が、元の世界より幸福で、満たされた生活を送っているのだろう。

…シルナがいない世界で、幸せに。

彼らの笑顔を見るのは、俺も仲間として嬉しかった。

彼らは皆無邪気で、楽しそうで、人生に悪いことなんて何もなくて。

順風満帆で、満たされていて、毎日幸せそうに過ごしていた。

だから俺は、それを喜ぶべきなのだ。

ここは、誰もが幸せな世界。

…だけど、シルナがいない世界。

シルナがいないというだけで、俺にとってこの世界は、欠陥品以外の何物でもなかった。