神殺しのクロノスタシスⅤ〜後編〜

良いことなんだけどな。

良いことのはずなのに、素直に喜んであげられない自分がいる。

「普段から、次はいつ帰ってくるのかって、両親がうるさいんですよ」

「いくつになっても、親は自分の子が可愛いものだ。親孝行は出来るうちにしておけと言うしな。面倒がらずに、頻繁に顔を出してやると良い」

「無闇さんがそう言うから、時間が許せば帰るように心掛けてるんですけどね」

弟さんの面倒を見させる為に、無理矢理家に帰ってこさせようとしている訳じゃないってことは。

エリュティアの、この嬉しそうな顔を見れば分かる。

この世界のエリュティアの両親は、心からエリュティアを愛しているから。

エリュティアもまた、家族なことを愛しているから。

だからこそ、こんな風に家族のことを笑って話せるのだ。

…涙ぐましいじゃないか。なぁ?

「…無闇は?」

俺は、今度は無闇に尋ねた。

「?俺が何か?」

「お前も…『死火』を利用としようとする輩から、ずっと月読(つくよみ)のことを守ってきたんだよな?」

神殺しの魔法だと勝手に決めつけられ、『死火』を付け狙う輩から、月読を守ってきた。

一人でずっと、『死火』の守り人として孤独に旅を続けてきた。

それが、俺の記憶にある無闇の過去だ。

…しかし、この世界の無闇は。

「『死火』を…?確かに俺はずっと『死火』と契約しているが…」

と、無闇は怪訝そうな顔で答えた。

「別に、誰からも狙われたことはないぞ。『死火』は強力な魔導書だが、だからといって神殺しのような力はないからな」

「…」

狙われたことはない。『死火』を。

守り人としての役目を背負わされることもなく。

…元の世界の無闇と月読が聞いたら、何と言っただろうな。

随分物分かりの良い連中が多いもんだ、と言っていたかもな。

俺もそう思う。

「だが、それがどうかしたのか?」

「…いや…」

分かったよ。尋ねた俺の方が愚かだった。

でも。

「…ついでに、もう一つ聞いても良いか?」

「?何ですか?」

「何だ?」

俺は、一番聞きたかったことをエリュティアと無闇に尋ねた。

「二人共、シルナ・エインリーを覚えてるか?」

「…?知らないけど…誰?」

「聞いたことのない名前だな」