神殺しのクロノスタシスⅤ〜後編〜

吐月の後に会ったのは、エリュティアと無闇の二人だった。

「あ…。エリュティア、無闇…」

「?羽久さんじゃないですか」

「どうした。何か伝言でも?」

エリュティアと無闇は、突然現れた俺の姿を見てそう尋ねた。

「…悪い。今から任務だったか?」 

「?はい、この後二人で任務に出ますけど…」

こちらの二人も、これから任務に出るらしい。

忙しいところ悪いが、少し俺の相手をしてもらいたい。

「…ちなみに、どんな任務なんだ?こっそり教えてくれないか」

「えぇ?別に、こっそり教えるようなものじゃないですけど…」

「人探し…ならぬ、インコ探しだ」

と、無闇が教えてくれた。

…インコ?

「王都のとある家庭で飼っているセキセイインコが、鳥かごの掃除中に脱走して、まだ戻らないらしい。それを探しに行く」

とのこと。

成程、それでインコ探し…。

探索魔法が得意なエリュティアの手にかかったら、インコ探しもお手の物だろう。

…それにしてもまさか、エリュティアの探索魔法を、街のインコ探しに利用するとは…。

才能の無駄遣いなのでは?

確かにインコも大事だけど。飼い主にとっては家族に等しい存在だろうけど。

しかし、もっと優先すべきことが他にあるような気がする…。

さっきの吐月も、砂防工事の手伝いという、割と平和な任務だったもんな。

もしかしたらこれが、この世界の特徴の一つなのかもしれない。

人が怪我をしたり命を落とすような、悲しい出来事が起きにくい。

だからクュルナの親友も死んでないし、吐月も雪刃に脅迫されて、人殺しの罪を犯していない。

従って、聖魔騎士団魔導部隊大隊長の面々も。

砂防工事の手伝いやインコ探しという、比較的平和な任務についている。

本当の世界も、こんな任務ばかりだったら良いんだけどな。

「すぐに見つかると良いんですけどね」

「大丈夫だろう。インコの羽根では、それほど遠くまでは行けないだろうし」

なんとも平和な会話じゃないか。

ついこの間まで、アーリヤット皇国との戦争の話をしていたとは思えない。

…この世界では、他国との戦争なんて全く無縁の話なんだろうな。

フユリ様とナツキ様、凄く兄妹仲が良いってことだったし。

「それで…羽久さんはどうしたんですか?」

と、エリュティアが尋ねた。

俺か…俺は…。

…。

…この、誰にとっても幸福で平和な世界では、もしかして。

「エリュティア。つかぬことを聞くが」

「はい?」

「…お前、最近…家族とは、どんな感じだ?」

本当の世界でエリュティアは、イーニシュフェルト魔導学院に入学する代わりに、家族と絶縁する羽目になった。

今に至るまで、家族と和解したという話は聞いていない。

…しかし。

「どうしたんですか?いきなり、そんなこと…」

「良いから、何も聞かずに教えてくれ」

「えーっと…。どんな感じと言われても、いつも通りですけど…」

いつも通り…。

それは、いつも通り何の音沙汰もない、という意味ではなくて。

「相変わらず、家族は皆仲良しですよ。僕も休みの日には、よく実家に帰ってるんです」

案の定、エリュティアは嬉しそうな顔でそう答えた。

…やはり、そうだったか。