神殺しのクロノスタシスⅤ〜後編〜

マシュリはずっと、自分が人間とケルベロスのキメラであることを隠すようにして生きてきた。

神竜バハムートの血を継いでいることなど、俺達には決して言わなかった。

ましてや、こんな風に誇らしく自分の出自を語るなんて…。

俺の記憶にあるマシュリとは、全くかけ離れた性格のようだ。

「確かに、僕を気味悪がる人は少なくないけど…。でもそれ以上に、人間でもあり、ケルベロスでもあり、そして神竜でもある僕を、三種の種族を繋ぐ架け橋のように思ってくれる人が、たくさんいるんだ」

と、マシュリは誇らしそうに語った。

三種の種族の…架け橋。

人間でもあり、ケルベロスでもあり、神竜でもあるマシュリは。

それぞれの種族の気持ちが分かる代弁者の立場として、相容れない三つの種族を繋ぐことが出来る。

非常に前向きな解釈だな。

あのマシュリが、こんな前向きな言葉を口にするということは…。

「…冥界にいた頃から、仲間の種族には…その、良くしてもらってたのか?」

元の世界のマシュリには、決してこんなことは聞けなかっただろう。

石を投げられ、半端者と罵られ、果ては冥界を追い出されたのだから。

しかし、この世界のマシュリは。

「?別に…。ケルベロスからもバハムートからも、どちらの群れでも良くしてもらってたよ。凄く優しくしてもらった」

当たり前のことのように、そう答えた。

ケルベロスからも、神竜族からも優しくしてもらってたのか。

「他の種族も…僕を珍しがる人もいたけど、大抵の種族はそっとしておいてくれたし。皆自然に気を遣ってくれたりもして…」

「…」

「特に不愉快な想いをしたことはないけど…。…でも、それがどうかしたの?」

「…いや」

元の世界のマシュリが聞いたら、耳を疑っていただろうな。

この世界のマシュリは、一度として『半端者』と罵られることはなかった。

ありのままのマシュリを、誰もが受け入れてくれた。

「現世に来て、人間と一緒に暮らすようになってからも…。皆、僕を気味悪がったりせず、人間として受け入れてくれたよ」

「そうか…。…それは良かったな」

「?そうだね」

この世界のマシュリは、誰からも受け入れられるのが当たり前のようで。

それが特別なことだとは、全く思っていないようだった。

それは確かに、マシュリにとっては当たり前で…幸福なことなのだろう。

…羨ましいな。

この世界が本当の世界だったら、これ以上の幸福はなかっただろうに。