神殺しのクロノスタシスⅤ〜後編〜

稽古場から、自分の部屋に戻る途中だった。

「…あ、マシュリ…」

「…?何だか浮かない顔だね」

中庭の辺りで、マシュリに会った。

いろりの…猫の姿じゃない。人間のマシュリの姿だ。

…マシュリか…。

「駄目元で聞いてみるんだけどさ…。やっぱり、お前もシルナのこと知らないのか…?」

「何…?その気のない質問…。…シルナって誰?」

やっぱり知らないのか。

ちょっとでも期待した俺が愚かだった。

…まぁ、別にマシュリが悪い訳じゃないんだけどさ。

「さっきまでお前…ケルベロスになったり、神竜になってたりしたんだぞ。覚えてるか?」

「えっ、神竜…?…何で羽久がそのことを?」

この目で見たからな。お前が神竜に『変化』するところを。

あれは結局何だったのか、聞きそびれたまんまだな。

「ちょっと色々あってな…。…ともかくあれ、結構格好良かったぞ」

口から炎を吹いたところなんて、まるでファンタジー漫画みたいで超格好良かった。

結果的に決闘には負けてしまったけど、あれは言いがかりで負けたようなもんだしな。

実際勝ってたよ、あれは。

「…全然意味が分からないんだけど…。神竜の姿を羽久に見られたのは恥ずかしいな」

「恥じるなよ」

勇ましくて、格好良かったよ。

少なくとも、ぬりかべよりは格好良かった。

「お前、いつから竜になれたんだ?」

「いつからって…最初からだよ。僕の父親は神竜族、バハムートの血を引いているんだ」

謎の異世界で明かされた、衝撃の新事実。

それは…そういうことは、本当の世界で本物のマシュリから聞きたかったよ。

…いや…でも、元の世界でもそうとは限らないのか…。

イレースも天音もナジュも、本来の過去とは違ってるもんな。

マシュリも、元の世界とはまた別の過去を持ってるのかも…。

「母親はケルベロスと人間のハーフで、父親は神竜…。凄い生まれだな」

その話が本当なのだとしたら、あの決闘の場で、マシュリが神竜…バハムートに『変化』したのも頷ける。

「そうだね。確かに珍しい生まれだけど…。僕は、自分のこの姿を、とても誇らしく思ってるよ」

「…」

元の世界のマシュリだったら、絶対言わなそうな台詞だな。