神殺しのクロノスタシスⅤ〜後編〜

「…分かってもらえたか?」

「…どうやら、僕を謀っている訳じゃないようですね」

そうだな。

むしろ、謀られてるのは俺だ。

「その様子だと、お前もシルナを知らないんだな?」

「えぇ、全く…。僕がこの学院にやって来たときから、イーニシュフェルト魔導学院の学院長は、現在のシュニィ・ルシェリートさんです」

「…」

やっぱり、ナジュもシルナのことを知らない…。

令月やすぐりのように、学院にやって来た経緯も、シルナとは全く関係ないのだろうか。

「ナジュ、お前は…どうしてイーニシュフェルト魔導学院に来たんだ?」

「僕が優れた召喚魔導師だということで、シュニィさんにスカウトされたんです。学院の教師として」

成程。…天音と一緒か。

本来ならナジュもまた、シルナの命を狙って学院にやって来たはずなんだがな。

生徒の振りをして、シルナに…不死身のその身を殺してもらう為に。

「学院に来る前は…?」

確か、魔導師と非魔導師の戦争に巻き込まれて、まだ子供だった頃からずっと戦わされていた。

本人の口から、そう聞いている。

そして…致命傷を負ったナジュは、リリスと融合することで命を繋ぎ止めた…。

その後、リリスに会いたくても会えない、死にたくても死ねない恐ろしい呪縛に囚われ。

自分を殺してくれる人間を求めて、狂気に満ちた苦しい旅に出ることになった…。

それが、俺の知るルーチェス・ナジュ・アンブローシアの半生だ。

…それなのに。

「…たちの悪い作り話ですね」

俺の心を読んだナジュは、眉をひそめてそう言った。

ナジュにとっては、不愉快極まりないだろうな。

だけど、これは作り話ではないんだ。

認めたくなかったとしても…これが、本当のナジュの過去なのだ。

「…どういうことなの?ナジュ君。この人、さっきから何言ってるの?」

リリスが怪訝な表情で、ナジュに尋ねた。

「何でもこの人によると、僕とリリスは引き離されて、現実で言葉を交わすことは出来ないそうです」

「…!何で?」

「戦争に巻き込まれて、僕が致命傷を負って…リリスが僕を救う為に僕と融合して、それで不死身の身になるとか…」

「何それ…?そんなことある訳ないじゃない。考えるだけで不愉快だわ」

…だろうな。

俺とて、こんな…ナジュの古傷を抉るようなことは言いたくない。

だけど、それが俺の知る本物の現実なのだ。

「私はナジュ君の隣にいるのよ。今までも、これからもずっと。不死身なのは私だけであって、ナジュ君じゃないわ」

「…あぁ、そうなんだろうな…。でも俺の知ってるナジュは、リリスとはもう…死ぬまで会えない。心の中で言葉を交わすことくらいしか出来ないんだ」

これほど仲の良い二人が、本来はずっと前に引き離されているなんて。

とてもじゃないが、こんなこと信じられないだろうな。