神殺しのクロノスタシスⅤ〜後編〜

稽古場の建物自体は、俺の記憶にあるものと変わらなかった。

中に置いてある魔導人形も、記憶と変わらない。

…しかし。

「はい、これで10戦10勝ですね」

「うぅ、強い…」

「全然勝てない…。五人がかりなのに…」

「全く歯が立たないよ…」

稽古場の床で、生徒達が五人、へたり込んでいた。

どうやら、先程までナジュと模擬戦をしていたようだ。

こてんぱんに叩きのめされ、五人共項垂れていた。

…そして、大人気なくも生徒達を叩きのめした張本人はと言うと。

「それはもう。僕とリリスに敵う人はいませんよ。ねぇ?」

「ふふ、勿論。私とナジュ君は、ずーっと一緒に生きてきたんだもん。簡単にはやられないよ」

得意げなドヤ顔をする、ナジュの後ろに。

ぴったりとくっついている、きらびやかな女性。

…ナジュやマシュリと違って、俺は彼女の姿を見たことはなかった。

ナジュの身体に彼女の人格が宿ったとき、何度か言葉を交わしたことはあるけれど。

彼女がどんな姿をして、どんな声をしているのか。

…まさか、こんなところで見る機会に恵まれるとはな。

「…あの子が、リリス…」

ナジュの契約召喚魔。冥界の女王と呼ばれる魔物。

遥か昔、ナジュの魂と融合することで肉体を失ったはずのリリスが。

今はちゃんと肉体を持って、ナジュの傍に寄り添っていた。

…常々、ナジュはリリスが美人だと口にしていたが。

あの言葉、ナジュの身内贔屓ではなかったようだな。

本当に美人だ。

ナジュってあれだな。…結構面食いだったんだな。

「召喚魔導師は、どんな魔物と契約するかだけが全てじゃありませんよ。やはり、契約した魔物との絆、信頼、こういったものが大切ですから」

と、ナジュは生徒達を諭した。

「そんなこと言っても…。冥界の女王と契約しているナジュ先生に言われても、説得力ないですよ…」

確かに。

「いやいや、とんでもない。リリスが冥界の女王じゃなくても、僕達なら無敵だったはずですよ。ねぇ?」

「当たり前だよ。私とナジュ君は、ベストカップルだもんね〜」

生徒の前だというのに、全く遠慮なくイチャイチャ。

…あいつら…。

イレースが顔をしかめる訳だよ。

他人のイチャイチャなんて、見ているだけでうんざりするが。 

「ナジュ先生とリリスさんって、本当に仲良いよね」

「俺も、もっと契約召喚魔と仲良くならないと…」

イーニシュフェルト魔導学院の生徒達は、素直な良い子揃いなので。

イチャつくんなら他所でやれ、と唾を吐く生徒はいない。

言っても良いと思うけどな。「リア充爆発しろ!」くらいは。

こんなの一日中見せつけられたら、俺だったら半日足らずで音を上げそうだな。