神殺しのクロノスタシスⅤ〜後編〜

それどころか、シルナを知らないだけではなく。

「お前達…暗殺者、だったじゃないか。『アメノミコト』の…」

「雨の…巫女?…何それ?とうもろこしの新しい品種?」

「『アメノミコト』だよ!ジャマ王国の」

ジャマ王国最大の暗殺者組織、『アメノミコト』。

令月とすぐりは、そこに所属する『八千代』、『八千歳』というコードネームで呼ばれる暗殺者だった。

おまけにこの二人は、『アメノミコト』の中でも『終日組』という、指折りの優れた暗殺者だった。

それなのに。

「ジャマ王国には、アメノミコっていう品種があるんだ?」
 
「美味しそうなとうもろこしだね。来年は、それを育ててみようか?」

全然、話が噛み合ってない。

お前達はいい加減、一旦とうもろこしから離れてくれないか。

「お前達、『終日組』の暗殺者だったじゃないか。『八千代』と『八千歳』って呼ばれてた…」

「『八千代』?『八千歳』?…何で羽久が、そのあだ名を知ってるの?」

令月が驚いたように尋ねた。

ほら、やっぱりここでも、二人はこのコードネームで呼び合ってるんだ。

それは紛れもなく、二人が『アメノミコト』に所属する暗殺者であった証。

「すぐり君。『八千代』とか『八千歳』って何?」

ツキナが首を傾げると、すぐりが説明した。

その名前は、暗殺者時代に呼び合っていたコードネームなんだ…と説明するのではなく。

「子供の頃のあだ名だよ。近所に住んでた幼馴染みと三人で、そう呼び合ってたんだー」

懐かしそうに、すぐりはそう言った。

…は?

「幼馴染み?すぐり君の幼馴染みなの?」

「そうだよ。『八千代』と僕と、それからもう一人、『玉響』(たまゆら)ってあだ名の幼馴染みがいてさー」

『玉響』…って。

俺も覚えている。あの子はすぐりと一緒に学院に来て、そして俺達の目の前で…。

「その『玉響』君は何処にいるの?」

「小学生のときに引っ越して、転校しちゃってさー。今でも、たまに連絡を取り合ってるんだけど」

「彼には魔導適性はないけど、『玉響』は昔から凄く頭が良くて、今は有名な進学校に通ってるんだって」

「ほぇー」

ツキナじゃないけど、俺も「ほぇー」と言いたい気分だった。

嘘だろ。『玉響』…あの子がまだ生きてる?

生きて、王都にはいないけど、別の学校に通ってる?

今も令月やすぐりと連絡を取り合って…?

「夏休みには毎年こっちに戻ってくるから、必ず会うようにしてるんだ」

「そっかー!すぐり君達の親友なんだね!」

「親友?親友ね…まぁ、そうかな」

すぐりは、照れ臭そうな微笑みを浮かべた。

その顔は、かつての仲間を自分の手で殺めてしまったという後悔の念は、全く感じられなかった。