神殺しのクロノスタシスⅤ〜後編〜

イーニシュフェルト魔導学院の校舎の中は、俺の記憶にあるものと相違なかった。

いつもの学院。見慣れたイーニシュフェルト魔導学院だ。

生徒達も、特に変わった様子はない。

でも…それだけに不気味だった。

まるで、違和感を覚えている俺の方がおかしいみたいで。

すると。

「あっ…」

見覚えのある生徒が、廊下を歩いてくるのが見えた。

「うんとこしょー、どっこいしょー。やっこらしょー、えっこらしょー」

謎の掛け声を呟きながら、野菜の苗を運ぶ女子生徒。

令月とすぐりが所属している園芸部の部長、ツキナ・クロストレイである。

丁度良かった。あの子なら。

「ツキナ…!ツキナ・クロストレイ!」

「ふぁっ!?」

突然俺に呼び止められ、ツキナはびくっとして立ち止まった。

危うく、運んでいた野菜の苗を落とすところだった。ごめん。

「ぐ、グラスフィア先生…?」

「ご、ごめん…。突然呼び止めて」
 
「もー!折角植える予定だったルッコラとコールラビの苗が、落っこちるところだったじゃないですかー!」

「ごめんって…」

ルッコラはともかく、コールラビって何?

そんなマニアックな野菜植えてんの?

つくづく思うけど、この子魔導学院じゃなくて、農業学校に入学した方が良かったんじゃないだろうか。

いや、それよりも。

「ちょっと…つかぬことを聞くんだが」

「?とうもろこしなら、順調に育ってますよ!」

とうもろこしの生育状況について聞きたいなんて、俺がいつ言ったんだ?

「そうじゃなくて…学院長のことを聞きたいんだ」

「学院長先生…?」

「あぁ。何処に行ったのか知ってるか…?」

「学院長先生なら、学院長室にいるんじゃないんですか?」

俺もそう思ったけど、いないんだよ。

いたのは、自称学院長のシュニィだけで。

もしかしたら、あの決闘のせいでシルナの身に何かあって。

皆して、俺にショックを与えない為に嘘を付き、初めからシルナがいなかったものとして俺を騙そうとしているのかもしれない。

皆が口裏を合わせて、俺が夢を見ていたかのように錯覚させるように。

だけど、生徒なら?

事情を知らないイチ生徒であるツキナに聞けば、シルナの身に何があったのか分かるかも。

さすがに、全校生徒全員を言い含めて、口裏を合わせることは出来まい。

「イーニシュフェルト魔導学院の学院長は…シルナ、だよな?」

当たり前じゃないですか。

という返事を、俺は期待していた。

…しかし。

「へ?…誰ですか?それ」

ツキナはきょとんとして、首を傾げた。