神殺しのクロノスタシスⅤ〜後編〜

あの条約って、いつからそんなポジティブな意味で解釈されるようになったんだ?

そう言えば聞こえは良いけど、その実は魔導師を国家の所有物にするもので…。

大体、アーリヤット皇国のナツキ様は、魔導師排斥論者じゃないか。

本当に魔導師を保護する為の条約を考えるはずがな、

「ナツキ様は、フユリ様に負けず劣らず親魔導師的な御方ですからね」

「アーリヤット皇国はルーデュニア聖王国に並んで、世界で最も魔導師にとって住みよい国として有名ですね」

「僕も、旅の途中でアーリヤット皇国に立ち寄ったことがあるけど…。魔導師ってだけで、申し訳ないくらい良くしてもらって…。照れ臭かったよ」

シュニィとイレース、天音の順で言った。

…いつから、そんなことに。

俺の知ってるナツキ様じゃない。

いつの間に心変わりしたんだ…?決闘に負けて、心を入れ替えたのか…?

いや、でも…シュニィ達のこの口ぶりじゃ、ナツキ様の豹変はここ最近ではなく、昔からそうだったような言い方だし…。

俺はもしかして、タイムスリップでもしてしまったのだろうか。

咄嗟に、学院長室のテーブルの上に置いてある、卓上カレンダーを見た。

本来この机の上に置いてある卓上カレンダーは、毎月違うチョコレートの写真がプリントされている、シルナ曰く「チョコカレンダー」のはずなのだが。

今机の上にある卓上カレンダーは、一体何処で売ってるんだろうかと思うチョコカレンダーではなく。

シュニィの趣味らしく、可愛らしい花の写真がプリントされた、ごく普通の卓上カレンダーになっていた。

そして、そのカレンダーに印刷された日付。

それは、間違いなくアーリヤット皇国との決闘が行われる日。

何度も確認してみたけど、やはり俺の記憶にある今日の日付だ。

じゃあ…タイムスリップしてしまった訳でもないのか。

だとしたら、俺は何でこんなところに?

シルナがいない…誰もシルナがいない世界に来てしまったとでも言うのか?

ここではシュニィがイーニシュフェルト魔導学院の学院長で、天音やイレースが学院に来た経緯も、俺の記憶にあるものとは違っていて。

ナジュは召喚魔導師扱いされてるし、ナツキ様は人が変わったようにフユリ様と仲が良くて。

戦争なんて、決闘なんてとんでもない。ルーデュニア聖王国の長年の友好国として、親しい間柄を保っている。

俺の頭を悩ませていたはずの、世界魔導師保護条約はと言えば。

迫害されている魔導師を保護するという、本当の意味での魔導師保護条約にすり替わっている。

そして何より、この場にいる誰もが、シルナのことを知らない。

皆で俺を騙しているにしては、タチが悪いぞ。