神殺しのクロノスタシスⅤ〜後編〜

――――――…羽久もシルナもリリス様も、他の皆も。

僕が『変化』した、この姿に驚愕していた。

そうだろう。

僕はこれまで一度も、この姿に『変化』したことはなかった。

スクルトにさえ、このことは一度も話さなかった。

だって、これは禁忌だから。

決して許されない、禁忌の姿。

『変化』出来るのは、一生で一度きり。

人生で最初で最後の『変化』だ。

…正直、上手く『変化』出来るか自信がなかった。

でも、心配は要らなかったようだ。

僕の中に眠る血は、確かに神竜…バハムートのものだった。

身体の中に巡っていた毒が、バハムートの強い自己治癒力によって綺麗に浄化されていくのが分かった。

モヤのかかっていた頭の中が、少しずつ晴れていく。

今の自分なら何でも出来るという、強い万能感を感じる。

一生に一度切り、これで最後だからね。

せめて最後の晴れ舞台くらいは、無様を晒さずに終えたい。

すると。

「か…関係ないわ、そんなこと」

羽久達と同じく、間抜け顔を晒してポカンとしていたイルネが。

ようやく我に返って、焦燥の滲んだ声で言った。

「どうせ、紛い物の姿には変わりない。本物の…純血の竜族ではないわ」

その通りだよ。よく分かってるね。

さすが、研究者を気取るだけのことはある。

僕のこの姿は、所詮紛い物に変わりない。

純血の神竜族ではない。ただ、身体の一部に神竜の血を受け継いでいるだけのことだ。

だが、ほんの一滴でもその種族の血を継いでいるならば。

その姿に『変化』することは、僕なら容易い。

今の僕は、例え紛い物でも、紛れもなく神竜…バハムートそのものであった。

この罪の姿で、僕は自分の仲間を救う。

そして、実験台にされた憐れなオルトロスを、せめて安らかに眠らせる。

「こ、こうしてやる…!さぁ、行きなさい!」

イルネは4枚のカードを操り、それに連動して、改造オルトロスが動いた。

先程と同じく、僕の身体に鋭い牙を立てて噛みつこうとした。

…しかし。

「っ!嘘っ…!?」

神竜たるバハムートの鱗が、オルトロスの牙を通すはずがない。

逆にオルトロスの牙が砕け、牙の破片が床に散らばった。

当然、赤黒い粘液…イルネ特製のオルトロスの毒も、バハムートの鱗を通さない。

もう効かないよ、その作戦は。

「動いて、動きなさい!」

イルネは諦めずにカードを操り、オルトロスを動かそうとした。

…もう飽きたよ。

これ以上、恥の姿を晒すのはやめよう。

…お互いにね。