神殺しのクロノスタシスⅤ〜後編〜

―――――――…目の前の光景が、信じられなかった。

「何…。何なんだ、あれは…」

すぐにでもマシュリの解毒をする為に、棄権を呼びかけた。

しかしマシュリは、棄権には応じなかった。

代わりに、見たこともない姿に『変化』していた。

「い、一体何なの…?」

さっきまで余裕綽々だったイルネの顔に、困惑と怯えが浮かんでいた。

その愉快な面を拝む余裕は、俺にはなかった。

俺もまたイルネと同じく、ただ目を真ん丸に開いて、目の前の光景を眺めていることしか出来なかったのだから。

マシュリが『変化』したのは、ケルベロスでも、いろりでも、ぬりかべでもペガサスでも一反木綿でもなかった。

鈍い銀色に光る、鎧のような全身の鱗。

長い尾と、額に生える二本の角。

大地を穿つ、鋭く大きな爪。

そして…鱗と同じ銀色の巨大な翼が、背中から生えていた。

何なんだ、この姿は。

これじゃあ、これじゃあまるで、マシュリは…。

「…神竜…」

神々しいその姿を見たシルナが、ポツリとそう呟いた。

「え…?」

神竜…神竜っていうのは…。

もしかして…冥界に住むと言われる、伝説の生き物…。

冥界の神とさえ呼ばれる竜族の中でも、ひときわ位が高いとされる種族。

ベルフェゴールやリリスより、更に高位の存在。

それが、神竜族。

何故マシュリが…その、神竜に…バハムートに…『変化』出来るんだ?

「…外側を取り繕ってるだけか?『変化』の力で…神竜の姿に化けてるだけで、中身はいつものケルベロス…」

「…いや、あれは…正真正銘、神竜です」

俺の問いに答えたのは、シルナではなくナジュだった。

「リリスがそう言ってます…。あれは本当に…正真正銘の神竜族です」

「…嘘だろ…」

俺は思わず、そう呟いてしまったが。

しかし。

「やべぇぞ、吐月。なんてこった…。あいつ、マジモンだ」

「ベルフェゴール…」

リリスに続いて、ベルフェゴールまでお墨付き。

冥界に住む魔物である彼らが、揃って太鼓判を押した。

目の前にいる「あの」マシュリが、本物の神竜族であると。

正真正銘、バハムートの血脈を呼び覚ました姿であると。

「…マシュリ…」

お前、本当は…一体、何者なんだ?