神殺しのクロノスタシスⅤ〜後編〜

「毒を作る気はなかったんだけど、折角手に入れた副産物だもの。利用しない手はないでしょ?」

イルネの恐ろしいところは、改造オルトロスの体内で毒が精製され始めたから、これ以上の改造はやめよう、と思うのではなく。

むしろそれを面白がって、毒を利用する方法を考え始めるところだな。

さすがマッドサイエンティストと言ったところか。

狂気に拍車がかかっている。

「ちなみにオルトロスの毒は、現世で作られた人間相手の毒に比べたら、侵攻も早くて致死率も高い。一度体内に摂取したら、人間なら即死。…あなたもそうかと思ったんだけど、意外と粘るのね」

「…」

イルネは、実験体を観察するかのような目でマシュリを見つめた。

マシュリはまだ意識を保っているが、苦しそうな表情に、息が上がり始めていた。

人間なら即死…。そんな強力な毒が。

それでもマシュリがまだ生きているのは、マシュリが半分ケルベロスだからだ。

人間より遥かに生命力が強い、ケルベロスのキメラだから。

…だけど。

冥界産の毒に侵され、マシュリが酷く弱っているのは明らかだった。
 
このまま解毒せずに放置したら、マシュリは…!

「…っ、審判!決闘は終わりだ!」

俺は一回戦に続き、またしても、審判のマミナ・ミニアルに決闘の中止を申し入れた。

これ以上、決闘を続ける意味はない。

もう決着はついた。

毒に侵され膝をついた。悔しいが、マシュリはもう戦闘不能だ。

片方が戦闘不能になった以上、決闘はもうおしまい。

結果として、二回戦はルーデュニア聖王国の敗北となる。

しかし、そんなことはどうでも良い。

それより早く、マシュリを治療して解毒しなければ。

毒が全身に回れば、決闘に負けるより更に悪いことに…。

最悪、マシュリが命を落とす可能性だってあるのだ。

それだけは絶対に許せなかった。止めなければならない。

マシュリが死ぬ前に。

「…マシュリ・カティア。棄権しますか?」

マミナ・ミニアルは、膝をついたマシュリに向かって尋ねた。

頼む、マシュリ。棄権すると言ってくれ。

これ以上はもう無理だ。

すると、イルネが横から口を挟んできた。

「えぇ!?今良いところなのに!せめてあと10分、毒の経過を見せてもらいたいわ」

うるせぇ。お前は黙ってろ。

「それに、今更決闘を止めても無駄よ。もう毒を摂取してしまってるんだもの。解毒の方法なんてないわ。どっちにしても死ぬんだから、最後まで見せて」

うるせぇっての。いい加減殴りに行くぞ、この女。

イルネは無視だ、無視。それよりマシュリを…。

…しかし。

「…いいや、棄権はしない」

マシュリは毒に侵されながらも、そう返事した。