神殺しのクロノスタシスⅤ〜後編〜

「最初はね、全然上手く行かなかった。人間の血を混ぜられた魔物が、うるさく喚き散らすだけで…」

喚き散らす?

信じ難いほどの苦しみに、悶絶していただけなんじゃないのか?

「効果が見られないから、投与する人間の血の量を増やしていったら…そのまま死んじゃった」

「…」

…玩具が壊れるのとは、訳が違うんだよ。

魔物の命を奪っておいて、お前は…。

「二体目、三体目の魔物もそんな風に死んじゃって…。…やっぱり、たかが下位の魔物じゃ駄目だね。大した力がない。与えられる人間の血に耐えられずに死んじゃう」

当たり前だ。

違う種族の血を輸血されたら、どうなるか。

医療に詳しくない俺でも、想像がつくというものだ。

「だけどね、実験を繰り返すうちに分かったんだ」

「…何を?」

「下位の魔物はすぐ死んじゃうけど、中位以上の魔物なら、半分くらい人間の血を投与しても、比較的長く持つの。…よく考えたら、ケルベロスも上位だもんね。当たり前よね」

「…」

どうでも良い情報だ。

お前の研究の成果なんて、聞きたくもない。

「だから、私は中位以上の魔物を実験体にするようにしたの。検体を確保するのが大変だったわ。中位以上ともなると、扱いが難しくて」

困ったような顔して、何を言ってるんだ。

自分が実験体にされそうになってるのに、抵抗しない訳がないだろう。

「あんまり喚いてうるさいから、脳みそをちょっと弄って、黙らせることにしたのよ。そのときの手術跡なの、これ」

イルネは、オルトロスマリオネットの頭部を指差した。

頭皮が破れ、脳みそがはみ出している。

あれは、頭の中を弄くられた跡だったのか…。

そうやって、無理矢理自分の意志を奪われて…従順な実験体に作り変えられて…。

しかし、イルネの凶行はこれだけに留まらない。

「それから、より人間の血に順応するように、身体中を改造して作り変えたわ。内臓を取り出して、人間のものに取り替えたり…。血管を繋ぎ変えたり、手足の長さを変えたりね。そうやって、改良に改良を重ねて…」

「…」

「完成したのが、これよ」

誇らしく、両手を広げて。

イルネは、オルトロスマリオネットを皆に披露した。