神殺しのクロノスタシスⅤ〜後編〜

聞いてもいないのに、イルネはその理由を教えてくれた。

オルトロスマリオネットが、どうやって作られたものなのかを。

「私の研究テーマの一つなのよ。魔物の研究は」

「…研究…テーマ?」

「そう。魔物の力を行使する召喚魔導師って、とても強いでしょ?だから私、羨ましくって。でも私には、召喚魔導師の素質がない。冥界から魔物を呼ぶどころか、魔物の魔力を行使するなんてとても出来ない」

召喚魔導師の素質は、生まれながらに備え持つものだ。

生まれつき、魔物に好かれやすい体質がある者だけが、召喚魔導師になる資格を持つ。

今俺の隣にいる、吐月なんかが良い例だ。

「でも、だからって諦めるのは勿体無いでしょ?」

いや、素質がないんだったら、素直に諦めろよ。

召喚魔導師じゃなくても、他の魔法を極めれば良い。

それなのに、イルネの思考回路は、常人のものとはかけ離れていた。

「どうやったら、召喚魔導師じゃなくても魔物の力を扱えるようになるのか?私はそれを研究した。あなたが『HOME』にいた頃から、私ずっと気になってたの。魔物の生態」

「…」

「あなたは良いサンプルだった。魔物でありながら、召喚魔導師という触媒なしに、現世で普通に暮らしてるんだもの。それで私、気づいたの」

自分の研究テーマを、皆に聞いてもらえるのが余程嬉しいのか。

イルネはうきうきと、夢を語る少女のように饒舌だった。

…とても、無邪気な少女の夢とは思えない内容だが。

「あなたと、純粋な魔物との違いは何か?そう、人間の血よ。身体の中に人間の血と、魔物の血の両方が流れてる」

人間とケルベロスのキメラだからな。マシュリは。

「これだと思ったわ。人間の血を半分注ぎ込んで、より『現世に近い生き物』にすれば、召喚魔導師なしに、現世で魔物としての力を扱えるんだって」

「…それは…」

…理論上…理論上は間違ってないのかもしれないが。

でも、それが分かったからって、どう…、

「だから私、試してみたくて。国中から三流の召喚魔導師を集めて、そいつらの契約してる魔物を実験体に使うことにしたの」

相変わらず、にっこりと微笑んで。

イルネは、とんでもなく恐ろしいことを口にした。

「大変だったのよ。どれだけ脅しても、召喚魔導師は『実験の為に魔物を呼ぶことは出来ない』って拒否するし」

当たり前だろ。

召喚魔導師にとって、自分の契約している召喚魔は、家族にも等しい存在だ。

大事なパートナーであり、かけがえのない友人でもある。

そんな大切な相棒を、どうして実験体に提供出来るものか。

…それなのに。

「でもまぁ、それは良いの。そいつの家族を連れてきて、目の前で拷問してやったら、大人しく言うことを聞くようになったから」

「…」

…なんてことを。

この女、正気か…?

「そこまでして、やっと魔物を呼ばせて、早速そいつを拘束して…人間の血を身体の中に注いで、魔物と人間の血を混ぜたの」

…ドリンクバーで、メロンソーダとコーラを混ぜてみました、みたいな軽いノリで。

魔物と人間の血を混ぜるなんて…そんな恐ろしい真似を、どうして。

つまり、後天的にマシュリみたいな…人間と魔物のキメラを作り出そうとしたってことなのか?