神殺しのクロノスタシスⅤ〜後編〜

凄いでしょ、じゃないんだけど。

確かに…色んな意味で凄いけど、俺達が言いたいのはそういうことじゃない。

「…何なんだ、それ」

マシュリは露骨に顔をしかめ、口元を手で覆って尋ねた。

俺も聞きたかった。

俺達でさえ、鼻が曲がりそうなほど強烈な匂いを感じているのだ。

嗅覚に優れたマシュリにとっては、地獄に違いない。

…いや、それとも、それが目的なのか?

「鼻の良いあなたには、効果覿面かと思って」

満面笑みで、にこりと笑って答えるイルネ。

…やっぱり。

マシュリの武器の一つである、優れた嗅覚を潰す為に。

酷いことを考えやがる。

しかし、マシュリは。

「そういうことを言ってるんじゃない…。それは何なのかって聞いてるんだ」

マシュリの言う「それ」が何を指すのか、聞くまでもなかった。

その…マリオネットのように、テグスに吊り下げれた生き物の死体…。

いや、あれは死体なのか?

時折、痙攣するかのようにピクピクと震えている。

「素敵でしょ?…私の最高傑作」

イルネは、恍惚とした表情でバケモノマリオネットを見つめた。

これが最高傑作?

こんな気持ち悪いものを見て、そんな顔が出来るなんて。

どうやら、こいつもかなりイカれてるらしいな。

バニシンと言い、『HOME』にはこんな奴らしかいないのか。

類は友を呼ぶって奴なのか?

「これが何なのか、あなたなら当てることが出来るんじゃない?」

「…」

挑戦的な笑みを向けられ、マシュリはしばし、そのバケモノマリオネットを見つめ。

そして。

「それは…。…オルトロス、なのか」

マシュリは、ポツリとそう呟いた。

オルトロス…?って。

じゃあ、もしかして…あのバケモノマリオネットは。

「正解。よく分かったね」

イルネはパチパチと手を叩いて微笑んでいた。

…何で笑ってるんだ。

まるで、クリスマスプレゼントの中身を教えられた子供のように。

「シルナ…。オルトロスって…魔物の一つだよな?」

俺は、横にいたシルナに尋ねた。

聞いたことがある。オルトロスとは、冥界に住む魔物の一種族のはずだ。

「うん…。マシュリ君と同じケルベロスや…ペガサスやユニコーンとかと同じ、冥界に住む魔物だよ」
 
「…やっぱり…」

マシュリにとっては、親戚にも近い種族のはずだ。

何でこんなところに、冥界に住む生き物が。