神殺しのクロノスタシスⅤ〜後編〜

バニシンの馬鹿力にも、思わず息を呑んだものだが。

今度のこれは、その比じゃなかった。

決闘の会場に、突如として現れたのは。

イルネがカードで召喚したのは、異形の姿をした獣だった。

オオカミと犬と馬を、足して3で割ったような…それこそ、キメラであるマシュリの真の姿のような。

何処からどう見ても、バケモノとしか呼べないような生き物だった。

いや…あれは、生き物と言えるのか?

マシュリは、自分の姿を気持ち悪いと卑下していたが。

今イルネが召喚したものに比べたら、マシュリなんて可愛いもんだ。

イルネの召喚したバケモノは、見た目が異形なだけではなかった。

両手両足をテグスのようなもので吊り、さながら操り人形のように、不気味に蠢き。

口からダラリと舌が垂れ下がり、頭皮が破れて、中から半分骨と脳みそが露出している。

更に、半分に引き裂かれた胴体は、赤と黒の太い糸で雑に縫われ、不気味な縫い跡が残っている。

おまけに、縫い目から中身…腸みたいなグネグネした内臓がはみ出している。

眼球は片方が空洞で、もう片方の目は眼球が垂れ下がっていて、ゲル状の気持ち悪いゼリーみたいなものが詰まっていた。

両耳は削がれて、これまた赤いゼリーが詰まった穴だけが空いており。

口には、異様に尖った黒い牙が光っている。

そして極めつけは、一瞬で鼻が馬鹿になりそうなほど凄まじい、この腐敗臭。

これには、ナツキ様も露骨に顔をしかめて、ハンカチで口元を覆うくらいだった。

ルディシアが死体を操るときも、周囲に腐敗臭を撒き散らしているけれど。

その比ではない。まさに腐った肉の匂いだ。

チョコの匂いで噎せ返るシルナの部屋が、とてつもなく良い匂いに感じるくらい。

「…うぇっ…」

「鼻が捩れそうだね」

すぐりと令月も、思わず袖口で口元を覆っていた。

今ばかりは、気絶しているベリクリーデが羨ましい。

この匂いを嗅がずに済むなら、気絶でも何でもしたい気分だ。

あの気持ち悪い姿、そしてこの匂い…。

まるで、自爆テロをかまして再生中のナジュみたいな気持ち悪さを感じる。

あいつも再生してるとき、内臓はみ出したまま歩いてただろ。

あれと同じだ。

「失敬な。僕はこんな酷い匂いを撒き散らしてはいませんよ」

ナジュが俺の心を読んで抗議していたが、今はそれどころじゃない。

似たようなもんだろ。内臓はみ出してるんだから。

でも…あれは、ナジュより酷い。

あの姿…まるで、何かの実験動物のようだ。

「どう?どう?…凄いでしょっ?」

誰もが口元を抑えて、吐き気を堪えているにも関わらず。

あのバケモノを召喚したイルネだけは、まるで、年相応にはしゃいでいる少女そのものだった。