私は、勝利を確信した。

多分、これを見ていたジュリスも同じことを思っただろう。

他の人は…何が起きたのか、目で追えなかったんじゃないだろうか。

当のバニシンでさえも。

「あ…?お前、何、しやがっ…」

そう言って振り向こうとした、その瞬間。

私の何倍も太くて、筋骨隆々なバニシンの両脚に、赤い亀裂が入った。

バニシン本人が首を傾げる間もなく。

プツプツと、血の粒が湧き上がり。

脚から血を噴き出すと同時に、バニシンの巨躯が地面に崩れ落ちた。

「うわぁぁぁ!?脚が…俺の脚が!!」

…自分の身に何が起きたのか、ようやく理解したらしい。

私はジュリスに習った抜刀術で、バニシンの両脚を斬った。

本当に、まるで豆腐みたいに簡単に斬れるんだね。

あまり気味の良い感触じゃないね。

私だって本当は、ジュリスがそうしたように、バニシンの武器だけ斬って終わらせたかった。

だけど、あの斧を砕くだけじゃ、バニシンが戦意を喪失することはないだろう。

だから、脚を斬った。

立てなくなれば、さすがに文句のつけようのない戦闘不能状態になるでしょう?

「…戦闘不能。だよね?」

私は、審判のマミナ・ミニアルに向かって尋ねた。

いくら君がアーリヤット皇国贔屓だろうと、ここまで明らかな戦闘不能状態じゃ、文句のつけようがないよね。

これ以上は戦えないよ。バニシンも…私も。

「しょ、勝者…ルーデュニア聖王国代表、ベリクリーデ・イシュテア」

苦虫を噛み潰したような顔で、マミナは私の勝利を宣言した。

君の物分かりがよくて、助かったよ。

命を奪わなきゃ戦闘不能とはみなさない、って言われたら…もっとややこしいことになるところだった。

「すぐに回復魔法をかけて、接合してあげて」

両脚を抑えて悶えているバニシンを見下ろして、そう頼んだ。

私は別に、彼が憎くて戦った訳じゃない。

決闘だったから、仕方なく刃を交えただけだ。

こうして決闘が終わった以上、無益な流血は望まない。

早く治してあげて欲しい。

「…ちっ、この役立たずが…」

彼なりに必死に健闘したにも関わらず。

アーリヤット皇国のナツキ皇王は、両脚から出血するバニシンを見下ろして、そう吐き捨てた。

…そう。

そんな態度じゃあ、とても君はルーデュニア聖王国には勝てないだろうね。

私はそう確信していた。