神殺しのクロノスタシスⅤ〜後編〜

自分を差し置いて、他でもない自分の妹が王位を継ぐことが決まって。

次に、ナツキ様がどうしたか。

それは…。

「それで、何でそのおーじ様は他所の国の王様になったの?侵略?」

物騒なことを言うなよ。

侵略じゃあない。

「結婚したんだよ、すぐり君。ナツキ様は王室を出て、婿入りしたんだ」

シルナが説明した。

それまで縁談の話はあっても、のらりくらりと躱し続けていたナツキ様だったが。

フユリ様が国王に指名されるなり、ナツキ様は驚くほどあっさり、縁談の話に頷いた。

そして、その婿入り先こそ…。

「その人、誰と結婚したの?」

「アーリヤット皇国の皇女様だよ」

国内にも、ナツキ様との縁談の話はいくらでもあった。

名のある貴族のお嬢さんや、王室関係者のお嬢さんとの縁談が。

しかしナツキ様は、国内の縁談を全て断った。

代わりに彼が選んだのは、自分がお嫁さんをもらうのではなく、他の女性のもとに婿入りすることだった。

その婿入り先が、アーリヤット皇国王室の皇女。

現在のナツキ様の妻である女性だ。

「別の国の王女様と結婚したってこと?」

「そうだよ」

「何で?アーリヤット皇国とは仲悪いんでしょ。仲が悪いのに、何で結婚したの」

「あの当時は、両国の関係は友好だったんだよ。今みたいに睨み合ってるようなことはなかったんだ」

むしろ、ルーデュニア聖王国一番の友好国と言っても過言ではなかった。

国交も盛んだったし、王室同士も仲が良かった。

アーリヤット皇室の皇子や皇女が、お忍びでルーデュニア聖王国に旅行しに来る…なんてことも、当たり前のように行われていた。

逆もまた然り。

…今となっては儚いな。

「だから、縁談の話も持ち上がってた。それまでは渋っていたけど、ナツキ様は突然、アーリヤット皇室の皇女のもとに婿入りすると決めたんだ」

「ふーん。逃げたんだね」

…令月。

その通りなんだけど。本当にそうなんだけど…。

そんなあっさり言うなよ…。

ナツキ様にとっては、きっと苦渋の選択だったと思うぞ。

でも、自分が王位を継げない国に、これ以上残りたくなかったのだろう。

だから縁談を利用して、逃げるようにルーデュニア聖王国から出ていった…。

「それで、今の皇王はそのナツキって人になったんだ」

「婿入りしたとはいえさー。他所の国出身なのに皇王になれるんだ?変なの」

そうだな、すぐり。

そのせいで、ナツキ様が皇王の座を継ぐと決まったとき、アーリヤット皇国国内ではちょっと揉めたって聞いたな。

でも…今となってはナツキ様は、誰もが認めるアーリヤット皇王になっている。

「アーリヤット皇室の決まりでは、男性が皇王を継ぐと決まっててね。女性は皇王にはなれないんだ」

「何それ。差別じゃん」

そういう国もあるんだよ。差別とかじゃなくてな。

「ナツキ様が婿入りしたときは、アーリヤット皇国の次の皇王は、皇室の長男だと思われていた。それから次男もいたから、その二人が皇王の候補だったんだけど…」

つまり、ナツキ様が結婚した皇女様のお兄さんだな。

そのお兄さん達が、皇王の座を継ぐものと思われていたのだが…。

「先に長男が、次に次男が相次いで急死。そのせいで、皇位を継ぐ正統な血縁の男子がいなくなってね。婿養子のナツキ様にお鉢が回ってきたんだ」

「ふーん。陰謀だね」

…だからな、令月。

そういうこと、思ってても口に出すんじゃない。