神殺しのクロノスタシスⅤ〜後編〜

決闘開始から、まだ一分足らず。

それなのに、俺は冷や汗をかいて、汗でじっとりした拳を握り締めていた。

とてもじゃないが、見ていられない。

目を逸らす訳にはいかないから、一秒たりとも目を背けはしなかったけど。

でも、許されるものなら、今すぐにでも瞼を閉じたいくらいだった。

とても見ていられない。こんな試合。

ベリクリーデは今のところ、怒涛の斧攻撃を全て躱していた。

その身のこなしは、さすがと言ったところか。

何度も「ヤバい、当たる!」と思った瞬間があったが。

その度にベリクリーデは、すんでのところで闘牛士のように身を躱し、逃げ続けていた。

今にも当たるんじゃないかと、俺はヒヤヒヤしている。

直撃しなくても、掠っただけで大怪我することは必至。

この激しい攻撃を、いつまで避け続けられるのか…。

「おいおい!拍子抜けだなぁおい」

斧を振り回していたバニシンが、大袈裟に腰に手を当てて怒鳴った。

「偉そうに息巻いてた癖に、避けるだけか?あぁ?」

「…」

ベリクリーデは答えない。

ただじっと、バニシンを見つめていた。

「それとも、何か作戦でも企んでるのか?反撃してこいよ。逃げるだけじゃつまらないだろ?」

「…」

バニシンに挑発されても、ベリクリーデはやはり答えなかった。

「へへ…。この女、何を考えてるんだか…。何か企んでやがるのか、それともビビって声が出ないだけか…」

バニシンは舌舐めずりをして、巨斧を構え直した。

「…いずれにせよ、両手足を潰してから聞けば良いよなぁ!」

そう叫ぶなり、更にバニシンの動きが速くなった。

こいつ、まだ…これ以上速く動けるのか?

この動きについていけなくなったベリクリーデが、いつ巨斧の攻撃に当たるのかと。

俺は、思わず息が詰まりそうだった。

「ほらほらぁ!逃げ回るだけじゃ勝てないぞ!?」

喜々として叫びながら、巨斧を振り回すバニシンと。

そんなバニシンの攻撃を、すんでのところで全て躱し、なおも競技場を逃げ回るベリクリーデ。

「…」

俺は気になって、ジュリスの方にちらりと目を向けた。

相棒が必死に戦っている様を見て、俺以上に緊張しているに違いないジュリスに。

ジュリスは無言で、一瞬たりとも目を逸らすことなく。

むしろ、一分一秒を脳裏に焼き付けようとでもするかのように、じっと決闘の様子を見つめていた。

…今何考えてるんだろうな、ジュリス。

俺より遥かに辛いのは、言うまでもない。

代わってあげられるものなら、今すぐにでも代わってあげたいと思っているに違いなかった。