神殺しのクロノスタシスⅤ〜後編〜

俺達は決闘をしに来たのであって、殺し合いをしに来た訳ではない。

だから当然、ベリクリーデも、バニシンを殺そうとはしないだろう。

決闘に勝利さえすれば、相手の命を奪う必要はない。

無益な殺生はしない。恨みがある相手でも無し。

ベリクリーデの性格的にも、故意に相手の命を奪おうとはしないはずだ。

…しかし、同じ気遣いをバニシンに期待するのは、間違いというものだ。

「つまり、殺しても良いんだろ?」

にやにやしながら、バニシンはわざとらしく尋ねた。

…やっぱり、こいつは殺す気満々だ。

ベリクリーデを散々にいたぶり、満足したらそのまま…。

…。

…俺は、思わず生唾を飲み込んでしまった。

「対戦相手の生死は問いません。相手を戦闘不能にした方が勝者となります」

マミナ・ミニアルは、あくまで淡々と「戦闘不能」という言葉を繰り返した。

そうだろうよ。

あんたにとっては、ルーデュニア聖王国の代表が死んだところで、全く興味関心はないだろうから。

「また、決闘会場である、この競技場から一歩でも外に出たら、即刻反則負けになります」

あぁ、一応そういうルールもあるんだな。

この広い競技場から、出ようと思ってもなかなか出られないと思うけど。

「その他、故意に観客席や決闘場を破壊する等の危険行為が見られた場合、私の判断で反則負けとします」

危険行為…ねぇ。

あの巨斧を振り回すことは、危険行為のうちに入らないのだろうか。

すると。

「決闘の時間は?時間制限はあるの?」

と、ベリクリーデが尋ねた。

そういえば、それ聞いてなかったな。

3分以内とか言われたら、更に俺達の勝ち目が薄くなるところだったが…。

「ありません。決着がつくまで続けます」

「そう」

一時間でも二時間でも、どちらかが戦闘不能になるまで、決闘は終わらないらしい。

それなら、逃げ回りながら隙を伺う…という、こちらの基本姿勢を貫くことが出来るな。

…とはいえ、このバーサーカー相手に、逃げ回って機を伺うだけの体力が、どれほど持つだろう?

一時間も持たないぞ。精々30分程度…。

それを超えたら、疲労困憊して逃げ回るのも覚束ないだろう。

体力が尽きれば、反撃を開始する前に潰れてしまう。

「他に質問は?」

「ないよ」

「…分かりました」

マミナ・ミニアルは、改めて真っ直ぐ前を向いた。

「それでは、決闘一回戦を開始します。両者、いざ尋常に…」

決闘の始まりを告げる、鋭いホイッスルの音が鳴り響いた。