決闘が行われる会場となったのは、ミナミノ共和国の首都にある、国立競技場である。

この場所を指定したのも、勿論ナツキ様である。

他所の国を決闘の開催国に、しかも国立の建物を決闘会場に選ぶとは。

指定するナツキ様もナツキ様だが、引き受けるミナミノ共和国も大概だよ。

まぁ、ナツキ様は他所の国を決闘の会場にすることなど、何とも思ってないだろう。

最悪、ミナミノ共和国の国立競技場を破壊したとしても。

決闘にかかる諸費用は全て、賠償金も含めて、負けた方が支払う羽目になる。

ナツキ様は負けるつもりなんて欠片もないんだから、自分の懐が痛む心配もしてないだろう。

戦う前から勝った気になりやがって。良い気なもんだ。

目に物見せてくれるからな。

そんなナツキ様は、優雅に競技場の観客席の一番良いところに座って、俺達の撞着を待っていた。

「…来たか。ルーデュニア聖王国の負け犬共」

俺達の姿を見た、ナツキ様の第一声がこれである。

聞いたか?負け犬だってよ。

自分が万が一負けるかもしれないとは、微塵も思っていないご様子。

そりゃまぁ、ここまで自分に有利な条件ばかりが揃ってたら、勝ち誇りたくなるのも無理ないけども。

お高く留まりやがってよ。今に見てろよ。

「随分と余裕だね。どっちが負け犬か、やってみなきゃ分からないと思うけど」

「…ふん」

シルナが言い返しても、鼻で笑ってる始末。

何とも傲慢な王様だ。

「愚かだな、シルナ・エインリー…。その程度の安い言葉しか出てこないのか?」

それどころか、シルナを挑発する始末。

「あのとき俺の手を取っていれば、こんな負け戦に臨まずに済んだものを…。…今からでも遅くない。俺の前に這いつくばって許しを請うなら、この決闘を考え直してやらんこともないぞ」

だってよ。

強そうな言葉ばっかり言ってるから、なんか段々弱く見えてきた。

「君の方こそ、必死だね」

しかし、シルナはナツキ様の戯れ言など、全く意に介さなかった。

「自分のお膝元の国で、自分に有利なジャッジをする審判を立てて、決闘のルールも自分で勝手に決めて…。そんな有利な状況でいくら強そうな言葉を並べ立てても、少しも強そうには見えないけど」

その通り。

この人、さっきから自分が勝って当たり前みたいな顔してるけど。
 
実際、条件だけ見たら、あんたらが勝つのは当たり前だから。

むしろ、ここまで自分に有利な状況を作って負けたら、一生物の恥だろうってくらい。

偉ぶってんじゃねぇ。ガキかよ。

「私は君の手を取るつもりはないよ。むしろ、赤恥かかされる前に、謝るなら今のうちだけど」

「…」

ナツキ様は口元を歪めたような笑みを浮かべて、シルナの言葉を黙って聞いていた。

火花が見える。両者の間に、バチバチ燃える火花が。

これぞ決闘、って感じがしてきたな。