神殺しのクロノスタシスⅤ〜後編〜

…すると。

「皇王の犬…ということは、あなたは私達にとって敵ですか」

あまりにもストレートに。

イレースは、身も蓋もない質問をした。

「はい敵です」と答えられてしまったら、再びこの場で喧嘩しなきゃならなくなるな。

「皇王に忠誠を誓ってるんでしょう。イーニシュフェルト魔導学院に潜り込んだのも、皇王の命令なんですね?」

「いや、ちょ、イレースちゃん。そんな…」

イレースのあまりにストレートな質問を、シルナが諌めようとしたが…。

イレースはむしろ、そんなシルナをキッと睨んで答えた。

「皇王の勅命を帯びてここにいるのだとしたら、この男は危険人物以外の何者でもありませんよ。これがどういうことか分かってるんですか?」

「…それは…」

「アーリヤット皇国の皇王が、ルーデュニア聖王国魔導社会の要とも言えるイーニシュフェルト魔導学院と、その教師や学生を攻撃するよう命令を出した。このことが国民に知られたら、一大ニュースだと思いますが」

「…うん、そうだね」

シルナでさえ、イレースのこの意見に頷いた。

…俺もそう思う。

もし本当に、アーリヤット皇国の皇王がルディシアを派遣して。

「イーニシュフェルト魔導学院と、その教師と生徒を攻撃しろ」と命令したのなら。

それは…アーリヤット皇国とルーデュニア聖王国の、ただでさえ緊迫した関係を刺激するには充分だ。

非常に宜しくない。

「ただでさえ今は、ジャマ王国との関係も良くないというのに…。アーリヤット皇国がジャマ王国と手を組むようなことがあったら、目も当てられませんよ」

おまけにイレースは、そんな最悪のケースさえ想定していた。

…予想したくない事態だな。

さすがに危険な匂いがぷんぷんするから、そうなったら戦うより逃げることを選んだ方が賢明な気がする。

まぁ、俺達は聖魔騎士団の所属だから、逃げるに逃げられないけどな。

…すると、そのとき。

床下から、バリッ、バキッ、と歪な音がした。

木の板を無理矢理へし折ったみたいな音だ。

と同時に、床板が蓋のようにパカッ、と開き。

床下から、見覚えのある顔が現れた。

「…令月…」

「来たよ」

…。

…来たよ、じゃねぇんだよ。

これには、シルナもびびって目を白黒させていた。

俺もびびったよ。

何処かに潜んで、一緒に話を聞いてるだろうとは思ってたけど…。

床下にいたのか。そうかよ。

「俺もいるよー」

当然のように、令月の後ろからすぐりが顔を覗かせた。

そうだろうと思ったよ。

二人の姿を見たイレースのこめかみに、ぴきぴきと血管が浮くのが見えた。  

あーあ…。

とりあえずお前ら、学院に帰ったら説教な。

聖魔騎士団隊舎の客間の床を、勝手に引っ剥がすんじゃない。