…深夜、シルナと一緒にチョコレートを食べたその翌日。

早速ナツキ様から、決闘の詳細なルールを書き記した文書が送られてきた。

もう少し、時間に余裕を持たせてくれるかと期待したんだがな。

随分急いでいるようだ。

十中八九、俺達に対策を立てる猶予を与えない為だろうな。

これまでずっと、ルーデュニア聖王国は後手に回ってばかりだった。

そして、今回もそう。

ナツキ様が提示した決闘の日付は、なんと翌日の午後だった。

つまり、昨日決闘を提案して、次の日に話し合いをして、その翌日にもう決闘が始まるっていう。

超強行スケジュールである。

息を整える暇もない。

「あ、明日って…。そんな、いきなり…」

これには、話を聞いた天音も愕然。

あと丸一日ないな。

24時間後には、決闘が始まっているってことになる。

「驚いている暇はないようですよ。決闘の開催地はミナミノ共和国だそうですから」

と、ナジュ。

そう、開催地。

決闘を行う場所は、ルーデュニア聖王国でもアーリヤット皇国でもなく。

例の、フユリ様がサミットの開催中ずっと閉じ込められていた、遠く南方にある島国、ミナミノ共和国であった。

「今すぐにでも出発しないと」

「いや、ちょっと待ってよ。ミナミノ共和国って、船で行ったら一週間くらいかかるって…」

そうだな。

呑気に船旅してたら、ミナミノ共和国に着く前に決闘終わってるな。

でも…奥の手ならある。

「ルイーシュ君に頼んで、送ってもらおう」

と、シルナ。

どうやらシルナも分かっていたらしいな。

「え?それはどういう…」

「空間魔法だよ。彼の魔法で、ミナミノ共和国まで送ってもらうの」

「…あっ…成程…」

天音も気づいたようだな。

空間を操るルイーシュの魔法なら、大抵の場所には一瞬で移動出来る。

ワープ能力と言っても良い。

ただし、このような便利タクシーじみた芸当は、誰にでも出来る訳ではない。

ルイーシュクラスの空間魔法使いなら、この程度は容易いのだが。

まず空間魔法という魔法が、かなり特殊だからな。

俺の使う時魔法ほどではないが、使用者を選ぶ魔法であることに変わりはない。

おまけに、ルイーシュのように、何処でもここでも一瞬でワープするほど高度な空間魔法使いは、まず滅多にいるものではない。

普段は面倒臭がりで、サボり癖があって、相棒のキュレムの頭を悩ませてばかりいるが。

あれでルイーシュって、俺より遥かに天才なんだぜ。

あの面倒臭がりな性格が何とかなれば、もっと出世出来ただろうに。

出世とか全く興味なさそうだもんな。

…まぁ、それはさておき。

ルイーシュに送ってもらえば、一応明日までにミナミノ共和国に辿り着くことは可能だ。

だから、決闘に間に合わないという不安はない。

…の、だが。