神殺しのクロノスタシスⅤ〜後編〜

神聖アーリヤット皇国。

地図帳を見ると、大海を挟んで、丁度ルーデュニア聖王国と向かい合うようにして位置する国だ。

国土も人口も気候も、ルーデュニア聖王国と大して変わらない。

言葉だって、ルーデュニア聖王国と同じだ。

その為…「色々な意味で」、ルーデュニア聖王国と姉妹国のように例えられることが多い。

でも、その実態は…。

…。

ルディシアはそこから…アーリヤット皇国から来たのか。

「ルディシア君は、アーリヤット人なの?」

「いいや?ただあの国にいたってだけで、生まれは別の場所だよ」

「あ、そうなんだ…」

アーリヤット皇国に所属していたとはいえ、ルディシア自身はアーリヤット人ではないらしい。

…助かったな。

これでもし、ルディシアがアーリヤット人だったら…。

もっと拗れたことになっていたかもしれない。ルーデュニア聖王国の中では…。

「それでも、皇王直属軍にいたんだね?」

「そうだね」

「それは…どうして?何か皇王様に恩があって…とか」

「成り行きだよ。俺は元々行く宛も帰る場所もないし、色んな国を転々としてたんだけど…」

そうだったのか。

かつてのジュリスや無闇みたいなもんだな。

「アーリヤット皇国に流れ着いて、死体を使って人を脅かして遊んでたら…」

遊ぶな。

「そこを見られたのか通報されたのか、突然目の前に、皇王直属軍の一人がやって来た」

「それで?」

「俺のネクロマンサーの力を見込んで、皇王直属軍に入らないかって誘われた」

「お前は、その誘いに乗った訳だな?」

「別に皇王なんてどうでも良いけど、誰にも咎められずにこの力を使って、好き勝手出来るならアリだと思ったから」

…成程。

どうせ行く宛もないんだし、だったら暇潰しがてらに、皇王直属軍に所属してみようと思った訳か。

でも、どうやらこの様子では…。

「皇王直属軍に所属してたとはいえ、お前は別に、皇王に忠誠を誓ってる訳でも、軍に特別義理立てしてる訳でもないんだな?」

「当たり前だよ。俺にとって、あいつらに協力するのは、ちょっとしたゲームみたいなものだったから」

そのちょっとしたゲームのお陰で、俺達は酷い目に遭ったけどな。

まぁ、そんな恨み辛みは脇に置いておこう。

でも…今回ばかりは助かった。

これがもし、ルディシアが本気で皇王に忠誠を誓い、自分が皇王直属軍の一員であることに誇りを抱くような人物であったなら。

今頃、ルディシアはこんなに大人しく囚われてはくれなかっただろう。

それこそ俺達は、ゾンビの大群を相手にしなければならなかったに違いない。

ルディシアの忠誠心が薄く、全てが「ちょっとしたゲーム」であったからこそ。

ルディシアはあっさりと寝返り、こうして必要なことを何でも喋ってくれているのだ。

…それは助かったけども。

アーリヤット皇国の名前が出た以上、この件は俺の予想より遥かに根が深いようだな。